中国企業にも「成熟後の戦略」という意識が?

テンセントグループの経営者との会話で、僕が「私が専攻している競争戦略という分野は、成長している経済圏で中心的な位置にいる現在のテンセントには、あまり意味がないと思いますよ」と言うと「それはそうなんだけど、いよいよわれわれにも成熟という段階が見えてきたから」という答えでした。

テンセントは、ポニー・マー(馬化騰)が27歳で立ち上げてから20年しかたっていない、若い会社です。したがって、そのグループの事業会社の経営者は完全に改革開放後に生まれたもっと若い世代です。小売業や洋服屋を自分で始めて、オポチュニティを捉えて急激に大きくなって、テンセントのグループに入った人々です。つまり、基本的にイケイケのオポチュニティ追求派です。

高度成長期に「経営力」は要らない?

来日したテンセントグループの事業経営者たちと実際に話した印象は、やはりイケイケ軍団でした(笑)。これまでイケイケドンドンでやってきて、今現在もそれで成長しているからです。要するに、現在の売り上げは業界第何位なのか、額はいくらで、どれだけ伸びているかが大切。

私は「戦後の高度成長や明治維新期の日本の経営者もこんな感じだったのかな」と勝手に想像して、「なるほど、そういうものなんだな」と勉強になりました。

景気に勢いがあって、自分が資本を持っていて、それをオポチュニティに張っていけば、「金持ちがけんかする」という構図になります。要するに、資本を持っている者ほど強く、ますます資本を持つようになる。これは中国固有の現象ではなく、普遍的なロジックです。

個別の経済主体の優劣が問われる、言い方を変えれば個々の経営力が問題になるのは、経済全体が高度成長期を終えて、定常状態に入ったときです。中国経済の現状から極端に言えば、現在はあまり戦略を必要としないフェーズです。

現在、テンセントグループの中には、たくさんの事業があります。事業ごとに経営者がいて、競争があって、勝ったり負けたり、儲けたり儲けられなかったりしていますが、テンセント全体としては依然として成長期真っただ中にあるトップライン追求型企業です。