ネット業界に衝撃を与えたヤフーとLINEの経営統合。その背景には米国と中国で成長する巨大IT企業への危機感がある。このうち中国側の代表格テンセントの歩みを綴った最新刊『テンセント 知られざる中国デジタル革命トップランナーの全貌』(プレジデント社)を読んだ一橋大学大学院の楠木建教授は、「この本を読むと、テンセントとアリババの企業戦略の違いが鮮明にわかる」という――。
写真=Imaginechina/時事通信フォト
中国インターネットサービス大手・騰訊(テンセント)の無料通信アプリ「微信(ウィーチャット)」のアイコン(中国)

チャンスは日本のベンチャーの比ではない

この本を読んで私が思い起こしたのは、日本の明治維新期のダイナミズムです。テンセントや、そのライバルであるネット通販最大手のアリババが中国で大きく躍進したのと同じような時期が、かつて日本にもあった。背景には共通点が多いと思うのです。

ある国や地域に一定の条件が整うと、爆発的な高度経済成長が起こります。産業革命期のイギリスや、第一次世界大戦前後のアメリカがまさにそうでした。戦後の日本も該当します。そのあと、「漢江の奇跡」期の韓国、改革開放後の中国と続いて、これから先はミャンマーやベトナム、あるいはインドかもしれません。

高度経済成長が起こる条件は、実はいつまでたってもインフラが備わらない国や地域のほうが多く、これらがまれにそろった場所に爆発的な成長期が順繰りに起こりうるわけです。日本の場合、こうした時期が過去に何度もありました。昭和の戦後復興を経ての高度経済成長期が、われわれの記憶に一番近いところです。

しかし、その前に起こった明治維新は、単なる経済的な成長期ではありませんでした。社会的にも政治的にも歴史的大変革が起こり、企業家、事業家、商人にとって、かつてない大きな機会が開かれたからです。

そのオポチュニティをガッチリつかみ、大きく成長した企業がたくさんありました。岩崎弥太郎や渋沢栄一などの若くて優れた実業家が機会を巧みに捉えて、大きな金融資本をベースに財閥を作ったわけです。

彼らの事業は、現代の日本のベンチャー起業家とはスケールがまるで違います。経営者自身の資質や能力、構想がどうこうという以前に、社会から湧き上がってくるオポチュニティの強度が比較にならなかったためです。