リアルビジネスへシフトして財閥化するテンセント

同じようなことが、現在のテンセントにも起こっています。中国経済は、成長率こそ鈍化しているにせよ、14億人ものスケールを持つ市場が伸び続けているからです。テンセントの事業の中核は、11億人ものユーザーを抱えるチャットアプリ「ウィーチャット(WeChat 微信)」やオンライン決済の「ウィーチャットペイ(WeChat Pay 微信支付)」、さらにオンラインゲームです。つまり、極めてBtoCの会社です。

このあと、国民一人ひとりの所得が上がり続ける中で、次のオポチュニティにテンセントが資本をどう投下していくかといえば、M&Aでしょう。

細かくフォローしていないのですが、私の印象では、現時点のテンセントはM&Aの対象を、リアルなビジネスを行うBtoCの企業に絞っているように思います。洋服を作ったり自転車を作ったりして大変勢いのある会社が、中国にはたくさんあります。

今はそういった企業を、どんどん買収している状態だと思います。ポートフォリオの中身は違いますが、ライバルのアリババも同じ方向性です。三井グループや三菱グループのように、ますます財閥化、コングロマリット化しています。

リアルな店舗のデジタル化で成長したアリババ

中国の巨大ITプラットフォーマーといえば、アリババとテンセントが並び称されます。多くの日本人はまだ社名を知っている程度の知識しかないと思いますが、この本を読むと、両社の企業戦略の違いが鮮明にわかります。

呉 暁波『テンセント 知られざる中国デジタル革命トップランナーの全貌』(プレジデント社)

私の感想では、アリババは外交的で派手さを好む会社です。それに対してテンセントは、閉鎖的というか、粛々と事業を進めている印象を受けます。理由は、両社のビジネスの違いにあります。

アリババのビジネスは、eコマースが主軸です。人が物を買う、そのマージンを取る小売業というスタイルは、販売の方法や場所がリアルからデジタルに移っただけで、伝統的なビジネスだといえます。アリババは最近、大きなエリアで実際の小売りを手がけてもいます。

インパクトが大きいのは、アリババのプラットフォームは、中国の都市部よりも地方に多い点です。地方都市や農村に無数にある伝統的なパパママショップが、実際の消費を支えています。

そういう人たちをパートナーとし、一足飛びに近代化されたオペレーションを組めるプラットフォームを、アリババは提供しました。アリババのデポから地方の小売業者へ品物を運び、顧客へ届けるシステムです。要するに、デジタルだけれども根幹的にリアルなオペレーションのある会社なのが、アリババです。