30年間毎日酒を飲み続けていた作家の町田康さんは、この4年間、1滴も酒を飲んでいない。なぜ大好きな酒をやめることができたのか。町田康さんは「楽しもう、頑張ろうという発想が飲酒の原因になる。まずは『人生は楽しくないもの』とする認識改造が必要だ」という——。
※本稿は、町田康『しらふで生きる 大酒飲みの決断』(幻冬舎)の一部を再編集したものです。
楽しもう、頑張ろう、では酒はやめられない
此の世の中には1泊30万円の部屋に泊まり三鞭酒を飲んでいる人があるというのに自分は1泊3000円の安宿で合成酒を飲んでいる。そしてそれが一夜の宿りならまだよいが、此の世における魂の宿りたる肉体の出来具合が3000円なのであればとてもじゃないがやりきれぬ。
とこぼす人に対して、「いやいや此の世の中は夢の世の中。常なるものはありません。つまり無常。よって嘆く必要はありません。3000円のなかに楽しみを見出しましょう。里山とか行ってみましょう。無農薬野菜食べましょう」と考えて乗りきる。
或いは、「よっしゃ。ほんだら俺もいってこましたるで。泪橋を逆に渡るで。とりあえず投資セミナー行って自分を高めつつ、あくまでも法の範囲内で銭を儲けていこう」と頑張るのも、どちらも酒をやめることにはつながらない、と申し上げた。
なぜかというと、2つの認識の根底に共通する大きな認識があって、その認識こそが飲酒の原因となっているからでその認識とはなにかというと。
そも人生は楽しいもの、または楽しむべきもの。
という認識で、これを改めることこそが、認識改造のぎりぎりの肝要のところなのである。