ところが、実際はなかなか訴訟に踏み切れない事情がある。なぜかというと、公務員の給料問題では、訴える相手が自治体になってしまう。そこが問題なのだ。
「相手が民間企業であれば、組合や労働基準監督署に訴えることで話は比較的早く進みます。訴えられた企業側もイメージの悪化や世の中への影響を恐れて和解に進むことが多いのです。訴えてきた相手が少ない人数なら『この和解の内容は口外しないこと』との一文を入れ、少ない額で早く沈静化させてしまおうとすることがよくあります。しかし自治体はそう簡単に非を認めません。自治体の予算の都合もあり和解など難しく、たとえ少額訴訟であっても断固拒否して通常の訴訟に発展してしまうのです」
つまり、税金をいくら使ってでも非を認めず闘いは長引く。長引けば弁護士費用がかさむ。さらに話題性が高いため、訴訟を起こした職員のプライバシーは露呈し、訴えた側が辛い思いをすることが多い。裁判所も行政訴訟になるので慎重になり審議が長引く。たとえ勝訴しても疲労感しか残らないことが多いのだ。
このケースのように自治体そのものが違法な命令を出している場合、想定外のことなので誰がそれを取り締まるか、是正勧告を出すかも議論が分かれ、なかなか前に進めない事情もある。そもそも、通常は自治体の長に訴えを持っていくべきなのにその長が違法行為をしているわけだから訴えようがない。ならば所轄(都道府県)の労働基準局や人事委員会にとなるが、試しにこの自治体を管轄する県に問い合わせてみると前例がないから……と当惑していたことも付け加えておこう。
公務員の悲哀を垣間見た思いである。
(PANA=写真)