「正しさ」の結果60歳の男がネイルショップ店長に抜擢

正しいと思い込んでいる状態は危険である。かつて、僕が勤めていた会社でネイルショップを経営していた時代があった。ネイルショップの店長はネイルに詳しい元ギャルにお任せするものだと社員全員が思っていた。

ところが上層部は総務課長(60歳男性)をネイルショップ店長に任命。その意図は「ネイルを知らない人物のほうがネイルにとらわれない斬新なビジネスを展開できる。仮にしくじっても躊躇ちゅうちょなくリストラできるし」という狂ったものであった。

マニキュアを塗ったことすらない、ファッション誌を買った経験もない総務課長はネイルショップを3カ月で潰した。上層部が正しいと信じて疑わなかった判断が会社に損失を与えたのである。

クラスを巻き込みアフリカを救おうとした同級生

正しさについて考えるとき、募金ちゃんというクラスメイトを思い出す。彼女が「私は正しいことをしているの!」と宣言した瞬間、クラスに充満した微妙な空気を思い出してしまう。

小学5年生のときだった。クラス全体でエチオピアやタンザニアの難民への意識が高まった。インターネットもなかった時代。今のように簡単に海外のニュースに触れる機会のない時代。まして僕らは小学生で、アフリカの出来事などSF映画よりも遠い世界の話だった。

きっかけは何だったのか僕は知らない。覚えているのは、当時学級委員長を任されていた募金ちゃんが、発起人だったという事実。彼女のお父上が貿易関係の会社をやられていたので、その影響があったのかもしれないが、なぜクラス全体を巻き込んだ活動になったのか、今でもよくわからない。

僕は、アフリカと言われてもまったくピンとこなかった。封切りされたばかりのアニメ映画『少年ケニヤ』で得られた情報が、僕のアフリカに対するすべて。あとはジョー・コッカーがかっこいい、『ウィー・アー・ザ・ワールド』。

だから、「アフリカで苦しんでいる人がいる!」と言われても、ユニセフあたりに募金すればいい、と思うだけだった。クラスメイトのほとんどはそう考えていたはずだ。それでも募金ちゃんの「私たちと同じ人間が大変なことになっているのよ。それを見過ごすのは人間としてどうなのかしら」という啓蒙活動が実を結んで、いつの間にかクラスのほとんどがアフリカを救おうという気概に満ちていた。