「空気のような存在」となっている五輪担当相
「やむを得ない判断を下さざるを得なかったのではないか」。政府を代表して調整委員会に出席した橋本聖子五輪相は、10月30日の共同通信加盟社整理部長会議で講演し、こうIOC決定に理解を示した。調整委員会でも「IOC、東京都、組織委など当事者の間で協議いただくもの」とするにとどめており、こうした当事者意識を欠いた発言にはSNS上で「IOCに文句の1つも言わない空気のような存在」との批判も出ている。
北海道出身の橋本五輪相は、森会長が政界に導いたことから「父と娘」のような関係にある。10月19日には、札幌変更について「北海道がさらに大きな舞台となっていくのは非常に喜ばしい」と歓迎する意向を示しており、「国務大臣は日本全体のために働くべきなのに地元の北海道優先?」などと批判を浴びた。
一部では「自民党が来夏の都知事選で橋本五輪相を擁立するために小池都知事に嫌がらせをして、橋本五輪相に手柄を与えた。でも、都民を置き去りにしたならば逆効果だ」(全国紙記者)とのブラックジョークも飛び出す始末だ。
すでに300億円以上が「東京開催」を前提に費やされた
開催都市である東京都や組織委が「当事者」であることは間違いないが、大会関連予算として国の支出は8000億円以上に上る。麻生太郎財務相は10月29日の記者会見で、札幌変更に伴う費用分担に関し「全然聞いていないから分からん」と答えたが、多額の税金を投入しておきながら「当事者意識」が欠如している無責任な国の態度は理解しがたい。
「五輪経費は国、東京都、組織委が分担している。お金に『色』はついていないわけで、すでに『東京開催』のために費やした税金の原資が、都民だけでなく『国民の税金」であることを分かっていない」(全国紙政治部記者)というわけだ。もちろん、日本の人口の1割強を占める約1400万人の都民は「国民」であり、都民の税金は「国民の税金」でもある。
今回の「IOC決定」が飛び出して以降、新聞やワイドショーなどは連日のように「小池氏 孤立無援」「都知事の抵抗」などと騒がしいが、すでに300億円に上る費用が「東京開催」を前提に費やされた上、札幌変更に伴う経費を請求される可能性があれば「『はい、そうですか」というわけにはいかない。東京都として言うべきことは言う」(小池氏)との姿勢は、都民を代表する都知事として当然だろう。