「¥マネーの虎」は制約から生まれた

撮影=小野田 陽一

【箕輪】栗原さんの「¥マネーの虎」はどうやって生まれたのですか。

【栗原】日本テレビは当時、若手ディレクターのチャンスが少なかったんだよね。そんな中で「進ぬ!電波少年」の土屋(敏男)さんが編成部長になって、土曜深夜1時に枠をつくって企画を募集。そこに応募した企画が「¥マネーの虎」でした。

まずやったのは、他局の研究です。いま考えると、それが『すごい準備』の原点です。土曜の深夜に何を放送しているのかを調べて、それらと同じものはやっても仕方がないなと。それから、予算に制限があるからトーク番組をやろうと考えました。ただ、深夜だから静かで落ち着いた番組にするんじゃなくて、逆に見たら興奮して朝まで寝られないくらいの熱い番組にしたかった。

トークバトルをして負けたら死んでしまうくらいの真剣さが生まれる仕掛けは何か。それでたどり着いたのが「投資」というテーマです。あの番組がヒットしたとき、経済ジャーナリストから「なぜ投資に目をつけたのか」と質問を受けたけど、最初に投資があったわけじゃない。とにかく熱いものがやりたくて、その手段として投資があっただけです。

【箕輪】栗原さんが描くゴールとして、まず「視聴者が眠れなくなるほど興奮すること」があったわけですよね。そして、さまざまな制約がある中で、そこに到達するためにどうすれば良いかを逆算したと。

【栗原】制約があればあるほど、番組はつくりやすいんですよ。制約があれば、あとは逆手に取るしかないから。

座組がキレイな企画はだいたいスベる

撮影=小野田 陽一

【箕輪】何の制約もない中ですごいことを思いつくのは、天才か頭のおかしい人だけ。ふつうは制約があったほうが、とりかかりやすいですよね。制約をどうにか飛び越えた結果として、見たことないものができあがる。

【栗原】本当にそう。たとえば人気タレントがいて、予算があったら、「うちも使おう」という発想になるじゃない? でも予算という制約があるから、頭をひねって別のことを考える。

【箕輪】ちなみに「¥マネーの虎」の時には、他に何本くらいの応募があったんですか。

【栗原】応募総数700本と聞きました。ふつうは、「これはこうすれば面白くなる」というようにある程度見えている企画が選ばれますが、土屋さんは「これ、どうなっちゃうの?」と先が見えないもののほうを面白がる。たぶん土屋さんじゃなかったら選ばれてなかったんじゃないかな。

【箕輪】たしかに見えてる企画は面白くないです。出版も同じで、座組がキレイな企画はだいたいスベります。業界の大物が持ち込んで、一番いい編集者と、一番いいデザイナーをつけて、というようにオールスターメンバーを集めた企画があって、僕もそこに組み入れられたりしますが、「あ、これはヤバいな」と(笑)。