同じ場を共有するために「国歌」に取り組んだ

たとえば、東芝ブレイブルーパス時代、試合前日、みんなでスパイクを磨く時間をつくりました。全員で輪になって、冗談を言ったり、くだらない話で盛りあがったりしながらスパイクを磨く。そんな場がチームワークを育んだという実感があったんです。それに、自分たちのスパイクが、相手選手よりもきれいだと不思議に自信がわく。そんな時間や場を大切にしたいと代表でも全員でスパイクを磨く時間をつくりました。

——ラグビーでは、3年以上の居住などの条件をクリアすれば、国籍とは異なる国の代表としてプレーできます。今回W杯では31人中、15人が海外出身選手です。多文化共生チームをまとめていくうえでも、同じ場を共有する時間は大切そうですね。

撮影=尾藤能暢

海外出身選手たちとの場という点で、ぼくらが取り組んだのが国歌です。

ぼくにとってもチームメイトと肩を組んで「君が代」を歌う瞬間は特別な時間でした。日本ラグビーを背負って、仲間と一緒に戦う実感がわくんです。

しかしぼくが日本代表のキャプテンになった2012年当時、海外出身選手のなかには、「君が代」を知らない選手もいました。国を代表するのに、その国の国歌を知らないのは、おかしいでしょう。チームの一員として認められていないのではないかと不安を抱いても不思議ではない状況でした。そこで、リーチたちチームリーダーたちと相談し、日本の繁栄を祈る歌だと「君が代」の意味を教えながら、みんなで練習する場をつくったんです。

みんなで肩を組んで歌う「スクラムユニゾン」

——なるほど。だから『ラグビー知的観戦のすすめ』の巻末で、W杯参加20カ国の国歌の歌詞を掲載しているんですね。

いま、ぼくは「スクラムユニゾン」と名付けたプロジェクトにも取り組んでいます。W杯出場国の国歌を覚え、みんなで肩を組んで歌う活動です。各国の選手に喜んでもらうだけでなく、来日したサポーターと肩を組んで、その国の国歌を歌えば、国際交流のチャンスになりますし、国歌を通してその国の歴史や文化を知る機会になりますからね。