ビームは消えても、照射は体に記憶される

10代になっていたその子どもは脳の萎縮が原因で入院していた。

「医学はどんどん発達しています。標準治療、つまりこの疾患ならばこれくらいの放射線を照射するという標準量も変わってくる。当時はその時点の標準治療を実施していました。その後、放射線治療による晩発性(遅く病気の症状が現れること)の副作用に関する知見が集積して、その疾患に対する放射線治療の標準量は、3分の2ほどに減りました。つまり、後からみると、当時の放射線の標準量が多かった」

放射線治療の影響ではないかと内田は打ちのめされた気分になった。

「放射線のビームは体を通過して消えてしまう。でも体は放射線を照射されたことを記憶している。特に幼小児の場合、晩発性の副作用が問題となりうる」

もちろん放射線を減らしていれば、脳腫瘍が治らなかった、あるいは再発するという可能性があった。恩師の石田は「放射線治療は、やめどきが一番難しい」と言い続けていた。その言葉を何度も噛みしめることになった。

日進月歩の治療

放射線治療の技術革新は目覚ましい。

鳥取大学医学部附属病院では10月から約半年かけて放射線治療装置一台を最新のシステムに入れ替える。これにより、肺や肝臓のように呼吸などで動く臓器にできた腫瘍への定位照射——ピンポイント照射の追尾が可能になる。

「これまでの当院の定位照射では、患者さんに30秒間ずつ何回も息を止めてもらう、あるいは呼吸性移動を考慮して照射範囲を大きめにする必要がありました。新しい治療システムでは、腫瘍を追いかけながら小さな照射範囲で治療することができるので、副作用がさらに少なくなります」

特に肺がんには効果的で、合計4回の照射で手術による切除と同等の治療成績が報告されている。

放射線治療医は放射線ビームを照射する、角度、回数、総線量を放射線技師に指示する。これを「治療計画」と呼んでいる。