自由になるために、仕事で成果を出す

嵐というグループは1999年にデビューをしましたが、その後、人気が伸び悩んだ時期がありました。中でも大野は、ジュニア時代から注目されていたり、すぐに連続ドラマの仕事があったりした他のメンバーに比べると、人気が高いとは言えない方でした。

しかし、与えられた舞台の仕事などは着実にこなしていき、評価をきちんと高めていきます。

そんな中、2005年頃からメンバーである松本潤の主演ドラマ『花より男子』人気などをきっかけに、嵐全体が注目を集めはじめます。すると、大野が作品を創っているということを知ったファンなどから、見たいという声が届くようになるのです。

フィギュアを2006年9月までに100個作る、という目標を締め切りより早く終えた後、大野は事務所の藤島ジュリー景子に自ら個展の企画を提案します。そして2007年、嵐は本格的にブレイクを果たします。

2008年2月、大野の作ったフィギュアや絵を展示するアート展『FREESTYLE』は全国で開催され、写真集も25万部の大ヒット。奈良美智など日本を代表するアーティストからも高評価を受けました。大野智は、嵐という与えられた仕事でもきちんと実績を残しながら、本来の夢をも叶えたのです。すでに30歳目前、ジュニア入りから14年の月日が経っていた年のことでした。

与えられた“仕事”で結果を出すことで、本当にやりたいことができる――。

嵐として20年の結果を出した上での“休職”が認められたことも含め、成果を出せば出すほど、人は自由になれるのかもしれません。

「好きなら、やり通せばいいじゃん!」

さて大野には、もともとアートの才能があったのでしょうか。大野自身は「才能がある」と言われると、それをきちんと否定します。

「みんなが義務教育で勉強してる中で、俺は勉強しないでひたすら絵を描いてただけの話なんだよ(笑)(※3)
「好きなら、やり通せばいいじゃん!ってこと。(中略)捉え方の問題だと思うけど、でも結局『好きか嫌いか』『興味あるかないか』じゃない? 絵を描きたいなら、描いてみて『あ……好きかな、興味あるかな』って思ったら続けるだろうし、『あんまり……』っていうなら、それは才能がないんじゃなくて、興味がないんだよ(※3)

才能のある/なし、ではなく、興味のある/なしである。という大野の説明には説得力があります。大野の人生は、「好きだから」という理由で、幼少期からひたすら創作をし続けていた人生です。違う仕事に就いても、合間を見つけてはやり続けていた。そうしたら、結果が出てきた……。

この大野の現在に至るまでのキャリアを説明するのには、「プランド・ハップンスタンス・セオリー(Planned Happenstance Theory)」という言葉がしっくり当てはまります。これは直訳すると、「計画された偶発性」。つまり、「キャリアは基本的に、予期しない偶然の出来事によってその8割が形成される」という理論です。いくつかのことを準備しておいて、それを持ち合わせた状態でフラフラしているとチャンスが来る、という含意があります。大野にとってはまさに、ジュニア入りも嵐入りも、他人の誘導による予期せぬ偶然の出来事で、不本意ですらあったこと。「やめよう」と思って、行動に出たこともあるほどです。