「相続した土地で事業」まではよかったが……
取立て(法律の範囲内です)の件についてはあれこれ説明して弁護士を納得させたものの、それにしてもGさんの身に何が起こったのか聞いておかないと、またいつ変な火の粉が降りかかるかわかりません。
蛇の道は蛇。いろいろと伝手をたどっていくと、こんなことがわかりました。
Gさんには親兄弟がなく、親戚づきあいもない。友だちもいない。地主だった親のおかげで生活には苦労はしないけれど、ひとりで寂しい毎日を送っていたGさん。
そこへ登場したのが、行政書士のHでした。
「Gさん、こんなに不動産があるのなら、そのまま寝かせておいてはもったいないですよ。土地に働いてもらって資金を調達して、事業をはじめましょう」
「事業?」
「ええ、社長はもちろんGさんにお願いします」
「……ぼくが社長?」
いままで想像もしていなかった世界にわくわくしてしまったGさん。でもこれは、地獄への第一歩。
Hとその仲間がGさんにささやきます。
「Gさん、この事業をはじめるのにこれだけのお金が必要なので、この土地を担保にお金を借りましょう。ここにハンコをお願いします」
「ここでいいの? ハイ」
ぺたっ。
「こっちのほうの資金が少し足りないから、この土地を担保にして借り入れしますね。ハンコください」
「えと、ここ?」
ぺたっ。
借り換えを繰り返し8億円の借金地獄に
「来年のことを考えると、運転資金を調達しておいたほうがいいんじゃないかな。お金を借りてくるんでハンコ頼みます」
「……大丈夫なの?」
「もちろんですよ! 社長はドーンと構えていればいいんです! さ、こちらの書類にハンコを」
「うん……」
ぺたっ。
「枠がいっぱいになっちゃって、いまのところだとこれ以上借りられないんで、ちょっとほかの業者に借り換えしましょう」
「……借り換え?」
「大丈夫ですよ。ちゃんと返済できますから問題ないです。余裕で返していける金額ですから」
「……そうなの?」
不動産を担保に借金を重ね、膨らんだ債務、総額8億円。その中には、前述のとおり反社から借りた借金もありました。
Gさんは、Hの事業の話は半信半疑だったのかもしれません。でも、食事に連れていってくれたり、ドライブに連れていってくれたり、Hと過ごす時間は有意義だったのかもしれません。楽しかったんでしょう。実際は、ドライブと称して金融機関や街金に連れていかれていただけでしたが。
でも、さすがに借金が増え続けることに不安を感じはじめたとき、Gさんの前にIというブローカーが現れました。Iは、「あなたはHに騙されているよ。オレが助けてあげるから、もうHとは縁を切りなさい」と、言葉巧みにGさんを誘惑します。