「仕送りをしてくれる、いい子なんです」
福祉施設で働く母親(65歳)には2人の子供がいます。同居している長男(40歳)はこの15年間、働くことができずひきこもっています。2歳下の長女(38歳)は結婚し独立しています。夫は今年初め、病気で他界しました(享年70歳)。
ある日、長女に連れられて相談ルームに訪れた母親は大きく息を吐いて、息子について語りだしました。
「最初からこんな状態ではなかったんです。息子が高校を卒業して入社した会社には独身寮がありました。そこで暮らしていたときは毎月2万円仕送りをしてくれていました。いい子なんです。23歳のときに転職して実家に戻ってきたのですが、それが失敗でした。転職した会社ではノルマを達成できなければ、ゴミ以下の扱いをされていたようです。口が達者なほうではなかったのでなかなかうまくいかす、毎日遅くまで働いていました。そして、徐々に仕事だけではなく、自分に自信がもてなくなっていったようです。出社時間になると具合が悪くなり出勤できないことが続き、25歳のときに依願退職しました。以来、ずっとひきこもったままです」
その後、何度か就職活動を試みたものの、面接日になると体調が悪くなる……を繰り返していたそうです。ただ、働けないということ以外に大きな問題は見当たりません。家のことをよく手伝ってくれるし、料理もできる。外には出たがらないけれど、家族とは普通に話せる。時間が解決するだろうと静観していたら、15年の月日がたっていたといいます。
外では働けないが、食事づくりなどの家事はできる
母は、父の定年を機に、知的障害者のグループホームで働き始めました。宿直のある仕事ですが、家のことは息子がやってくれているので頑張れるそうです。長女が現状をこう説明してくれました。
「母の職場には80歳以上の先輩がいるそうです。母もできるかぎり長く働き続けてほしい、と言われています。しかし、もう65歳です。今は元気ですが、いつ病気になったり、ケガをしたりで、働けなくなるかわかりません。そうしたら、母と兄の生活はどうなるのでしょうか。私には子育てがあり、仕事をしていないので、2人を経済的に支えることができません。母は生命保険にも入っていませんし、父の治療費などで退職金を使い果たし、貯金もかなり少なくなったようです」
そう言って私に手渡したのは、家計と資産の状況を書いたメモでした(図表1)。