第1に、映画のみを特別扱いしている点。コンサートや演劇など、ほかにも盗撮で頭を悩ませる業態は少なくないが、チケット等に記載された約款(契約)に基づき、主催者の施設管理権を根拠に、盗撮者に退場を求めるなど、より穏当な策を採ることは可能である。映画の海賊版は質量ともに深刻な問題だが、その事実がなぜ、国家権力を発動させる刑事罰での規制と結びつくのか。そのあたりの飛躍が気になるところだ。

第2に法定刑の問題。映画会社側が告訴しない限りは処罰されないものの、違反行為に科される法定刑は最高で懲役10年、ならびに罰金1000万円と設定されている。会社取締役の「特別背任罪」よりも重い重罪だ。他方で、海賊版DVDを販売する罪は、最高で懲役5年、罰金500万円である。これは本末転倒のバランス感覚というほかない。

第3に、私たちの自由な録画行動を、1歩制約する方向で進められた点が懸念材料だ。著作物の無断コピーは原則として違法だが、例外として、家庭内などで私的にコピーすることは許されている。この例外規定があって初めて、私たちはテレビ番組等の録画を楽しめるのだ。

ただ、映画盗撮防止法は、この著作権法制において「例外の例外」を定め、映画の私的録画を、国家が強制的に取り締まる余地を残してしまった。

民間にできることは民間でやる時代だ。映画館で三脚を立てて、「自分の家で観るため」などと言い訳して映画をカメラ撮影するような輩は、私的録画の権利うんぬんの前に、鑑賞のジャマになるのであって、私たちが即座に通報し、施設管理権をもとに職員が追い出せばいい。

批評や研究などを目的とする限り、著作物のフェアユース(公正な利用)を許すべきではないか、現在わが国でも議論が重ねられている最中である。そんなフェアユースの概念から逆行するようにみえる映画盗撮防止法は、これからの日本の著作権法制と整合しうるのだろうか。

(ライヴ・アート= 図版作成)