2年前のあおり運転は「危険運転致死傷罪」が適用されたが…
次に8月20日付の産経新聞の社説(主張)を見てみよう。
「車は身近な移動手段であると同時に、極めて危険な悪意の凶器ともなり得る。厳しく取り締まる必要があるのは当然だ」と指摘し、「だが被害者の負傷は軽微なもので、傷害罪での厳罰は望めない。危険運転致死傷罪は被害者が負傷の場合は15年以下、死亡なら20年以下の懲役となるが、同罪は『走行中』の行為を対象としており、このケースへの適用は難しい」と解説する。
この産経社説、どうも法律の問題に偏りそうだと思いながら読み進むと、その通りだった。産経社説も読売社説と同様に2年前のあおり運転を取り上げている。
「平成29年6月に東名高速道路でワゴン車の夫婦が後続のトラックに追突されて死亡した事故では、横浜地裁がワゴン車を停車させた乗用車の運転手に危険運転致死傷罪を適用し、懲役18年を言い渡した。同時に判決は、高速道路に停車させた状態を同罪の構成要件である『重大な危険を生じさせる速度』とするのは解釈上無理があるとも指摘した」
「いわば拡大解釈である。だが高速道路で強制的に停車させる行為が危険な運転でないはずがない。解釈に無理があるのは法令に不備があるからで、法改正によりこれを埋めるべきである」
沙鴎一歩も法改正には賛成だ。ただ読売社説と同じく、あおり運転が絶えない問題の背後を論じてほしい。
「厳罰化」を実行すれば、あおり運転は本当に減るのか
さらに産経社説はこう指摘している。
「警察庁は昨年、あおり運転は結果として死傷の被害がなくても刑法の暴行罪に該当するとして取り締まりを強化し、あおり運転を行った者に対しては『危険性帯有』により、運転免許停止の行政処分にするとした」
「ただし暴行罪は懲役2年以下であり、危険性帯有の免停は最長180日である。行為の危険性に比して軽すぎないか。法令は生き物である。現実に即して不断の見直しを怠ってはならない」
産経社説の「法律を見直せ」という主張は分かる。だが本当に厳罰化であおり運転が減るのだろうか。「危険性帯有」という法律用語をそのまま使用するなど、法律の解説に偏っているように思う。
「相手が悪い」と一方的に思い込む現代社会の窮屈さ
繰り返すが、いまの社会は寛容さを失いつつある。
そのひとつがあおり運転だ。相手の立場や考えを無視して自分の感情だけで行動してしまう。走行中に気に障ることがあると、相手の運転が悪いと一方的に思い込む。とくに高速道路上は危険と馬の背を分ける状態にある。一歩引いて相手の立場を考える余裕が必要だ。
週刊誌が政治家の不倫を見つけて鬼の首でも取ったように「問題だ」と書き立てるのもどうかと思う。政治家も人間だ。浮いた話のひとつぐらいあってもおかしくはない。
記事が売れさえすれば、それでいいと考える傾向は疑問だ。寛容さという余裕がほしい。