顔はまったくの無表情で、写真を貼り付けたかのよう

ただしBさんは関西地方にお住まいだったので、直接の面談ではなく、インターネットのテレビ電話を使いました。症状の回復は表情にあらわれやすく、できるだけ顔を見ながら話すように心がけているからです。

テレビ電話の画面に映し出されたBさんの顔は、まったくの無表情で、まるで写真を貼り付けたかのようでした。うつの影響で、喜怒哀楽が失われていたのです。

Bさん自身はうつの原因を自覚していました。Bさんは地元で商店を営んでいたのですが、四十数年前に近所に大型量販店が開店して、商売がうまくいかなくなってしまっていたのです。いらいらや不安で仕事が手に付かない。夜も眠れない。原因は明確なのですが、自分自身や奥さまにはどうすることもできない。病院に行き、投薬を受けましたが、40年以上治療を受けても、うつは治りませんでした。

私はBさんがうつから卒業するには、減薬も必要だろうと考えました。

薬をやめたところ、2週間で頭がスカッとクリアになった

私がうつを克服した大きな要因には、長年服用していた薬を飲まなくなったこともありました。実は、結婚前、私の妻もうつ病と診断されて、7年間、投薬治療を受けていました。しかし一向に回復しない。ある日、妻は精神疾患に詳しい知り合いに、「薬をやめてみては」と勧められました。その言葉を信じて、薬をやめたところ、耐えがたい頭痛に襲われました。薬を断ったときに出る離脱症状です。しかし2週間後、頭痛がぴたりとやみ、頭がスカッとクリアになったうえ、悩んでいた手の震えが止まったそうです。

私も知り合いのドクターの勧めに従って、減薬・断薬を行いました。とはいえ、ただ薬を抜けばいいというわけではありません。服用した期間や種類、その時点での体の状態、そして離脱症状によって、減薬の仕方は変わります。薬を減らすと脳のバランスが崩れ、症状が悪化してしまうケースもあります。減薬はとにかく慎重に進める必要があるのです。

自己流で減薬するのは非常に危険です。

また私や妻もそうでしたが、うつの症状を抱える人はついつい甘い物に手が伸び、いつの間にか食べ過ぎてしまいがちです。甘い物を食べるとその時は幸せな気分になれる。しかしその後が問題です。糖分をとって上がった血糖値が、その反動で一気に下がる。すると、不安感やいらいらが急に増してくる。うつの症状が重くなるケースが多いのです。Bさんにも糖分の取り過ぎには注意するように、と話しました。