精神安定剤と睡眠薬に頼り「もう死んじゃいたいな」
「よく介護してもらったことで、風邪もひかず、体重も減らなかった」。義母のケアマネジャーだった男性は、女性の献身ぶりをそう評価する。自分の家族だけでなく、近所の人の介護の手助けまでした。近くに住む主婦は、女性がトイレで動けなくなったお年寄りの家に駆けつけ、介助した時の手際のよさが忘れられない。
それでも夫は、「お茶がぬるい」などと細かいことでつらく当たった。女性は地元の地域包括支援センターにも相談した。しかし、担当者は「あなたは嫁さんで他人なわけだし、そんなに嫌なら家を出ればいい」と冷たかった。義母のことは好きだから、見捨てるわけにはいかないのに。「誰も分かってくれないんだ」という思いにとらわれた。
次第に眠れなくなり、精神安定剤や睡眠薬に頼った。安らぐのは介護の合間に般若心経を読む時だけだった。「もう死んじゃいたいな」とも考えるようになっていた。
「何もかも壊してしまおう」と灯油をまいた
女性は、事件の夜に夫との間で起きた三つの出来事を、直接の「引き金」に挙げる。
一つ目は、夕食のカキフライを「なんでいつも作っているのにこんなにまずいんだ」と怒られたこと。
二つ目は、風呂場で夫の髪や体を洗っていたら、洗い方が悪いと言われ、頭をたたかれたこと。
三つ目は、未明に家事を終えて寝室に行くと真っ暗だったこと。先に寝る夫は、いつもは電灯をつけていて、「これがこの人の優しさなのかな」と思っていたのに。
存在を否定されたように感じた。「何もかも壊してしまおう」と思った。
納戸からタンクを取り出し、灯油を夫の布団の周りにまいた。火をつけたろうそくをそばに立て、自分も隣の布団に潜り込んだ。
もうろうとした意識の中で、周りが明るくなり、夫が声を上げたのを覚えている。壁や天井が燃え、消防隊が消し止めて女性と義母は無事だったが、夫は約5カ月の火傷を負った。女性は逮捕され、夫側の求めで離婚した。