「私みたいな人をこれ以上出さないでください」

「介護を一人に任せないでください。私みたいな人をこれ以上出さないでください。地域の皆さんで力を合わせて、地域のおじいさんやおばあさんはどうしているかな、と見に行ってください……」。同年10月14日、地裁で被告人質問に臨んだ女性は裁判員らを前に涙を流した。

放火と殺人未遂の罪で起訴された被告に対し、法廷の空気は厳しかった。近隣に延焼すれば多数の人命を脅かしかねない放火は、重い刑になることが多い。裁判長は質問の最後、「重大さを分かっているのか」と問いつめた。

そして24日。判決の主文は、「懲役3年、執行猶予5年」だった。

裁判長は判決理由で、犯行の背景と動機を次のように認定した。

「被告の人生は2人の介護にそのほとんどが費やされ、被告なりに懸命に努力していた。ところが、事件前日、介護による疲れの中で、被害者から怒られるなどし、自らの存在・努力を否定されたと思い、いつまでこんな生活が続くか分からないし死にたい、自分が死んだ後に被害者だけ残すのはいたたまれないなどと考え、犯行に及んだ」

元夫「お前の人生を台無しにしてごめん」

判決は、放火という危険な犯行であることなどを踏まえ、「ただちに執行猶予にすべき事案とはいえない」とも述べたが、その一方で、女性に有利な事情として元夫の心情に言及した。地裁が入院先で証人尋問を行った際、元夫は、事件の夜の出来事について女性と一部食い違う証言をしつつも、「釈放してやってほしい」と話していたからだ。

尋問に立ち会った50歳代の元裁判員の男性は、取材に対し、「(元夫は)妻への態度は自分が悪かったと反省していた」と振り返る。

判決の2日後、拘置所を出た女性は、病院へ向かった。元夫に謝罪すると、「もっと理解してあげれば良かった。お前の人生を台無しにしてごめん」と謝ってくれた。少し救われた気がした。

その後すぐ、東海地方の街のアパートで一人暮らしを始めた女性に、記者はこれからどうするのかと聞いた。

「介護の仕事をしようかな」。自身を振り返り、「追い詰められている人を一人にしたくない」と思うからだという。