「なぜ経団連がルールを作るのか」という本質的な疑問も
そもそも、ルールは政府が企業全体へ要請しているものでしたが、経団連の指針がよく知られていたこともあり、経団連会員企業だけが守ればよいと受け止められている側面がありました。これまで、経団連内では「なぜ経団連がルールを作るのか」という本質的な疑問も出て来る一方、「止めれば無責任だ」との声もあったようです。つまり、経団連がルールづくりをすることが唯一の道かという疑問を持ちつつも、これまでは社会的に要請された役割としてやってきました。
近年は、個々の学生のキャリアに対する意識が変わってきています。デジタル技術の進歩や経済のグローバル化の進展などによって、学生の職業観も多様化が進んでおり、一生同じ会社に勤め続けたいという学生ばかりではなくなってきています。企業でも、業態の変化に応じて経験者の採用率がかなり高くなっていて、大企業でも採用の半数が経験者になっているところもあります。そうなってくると、新卒一括採用に重きを置いておく意味が薄れてきます。そうした背景もあり、経団連がルールの策定について一石を投じ、主体が政府に変わったのだと思います。
安い給料で雇える若者を確保したうえで、企業内でトレーニングしていく新卒一括採用・終身雇用の仕組みは、経済的で効率的なやり方でした。企業にしてみれば、お得だったんです。しかし、現在の環境変化はドラスティックで猛スピードです。だから経験者採用を拡大する企業が増えているのです。
「AI向け人材」のためインド人採用を強化する企業も
――だから就活ルール廃止とともに「通年採用」を強調されているわけですね。新卒一括採用だけでは企業がビジネスを戦っていけなくなってきているわけですか。
といっても、日本の企業をとりまく環境が全く同じというわけではないことは、ご理解ください。グローバル化やデジタル化の進展具合によって、採用や育成の現場での変化にも企業間の温度差はあります。経団連会員企業のなかには、従来の一括採用のほうが効率的な企業もあれば、新しい業態に精通した経験者の採用や、グローバルな市場展開に応じて外国人採用を急激に増やしている企業もあります。
たとえば不足感の強いのは「AI向け人材」です。この分野では優れた能力を持つインド人の採用を進める企業が出てきています。そういう企業にとっては、一括採用を前提にしたルールは意味がありません。