※本稿は、霜田明寛『ジャニーズは努力が9割』(新潮新書)の一部を再編集したものです。
ジャニー喜多川とドラッカーの共通点
いったい、ジャニー喜多川はジュニアを選ぶ時、はたまたジュニアからデビューするグループのメンバーを選ぶ時、どんなところを見ているのでしょう。ジュニアのオーディションでは、ダンス審査があるので、ダンスの技術を見ていると思いきや、どうやらそうではないようです。ジャニー喜多川はジュニアの選抜基準を自身でこう語っています。
「踊りのうまい下手は関係ない。うまく踊れるなら、レッスンに出る必要がないでしょう。それよりも、人間性。やる気があって、人間的にすばらしければ、誰でもいいんです(※1)」
天下のジャニーズ事務所の選抜基準が“やる気”と“人間的にすばらしい”だけで、「誰でもいい」とは驚きです。一般企業では、採用基準に「コミュニケーション能力が高く、創造性があり……」などと細かく条件をつけるところもある中で、これは一見、曖昧な基準にも思えます。しかし実は、こうしたジャニーの選抜基準と「経営の神様」と呼ばれるドラッカーの説く組織論は驚くほど一致するのです。
ドラッカーはその著書『マネジメント』で、「人事に関わる決定は、真摯さこそ唯一絶対の条件」といい、「真摯さを絶対視して初めてまともな組織といえる」とまで言っています。これはまさにジャニー喜多川の言う「人間的にすばらしい」と同じで、それがあれば「誰でもいい」というのも、真摯さの絶対視に他ならないでしょう。
さらに、ドラッカーは「組織の目的は、凡人をして非凡なことを行わせることにある」と言っており、ここまでくると、普通の少年たちをスターにして“特別なこと”を成し遂げさせてきた、ジャニーズ事務所のために作られた言葉なのではないか、と思うほどです。
「YOU来ちゃいなよ」に込められた思い
ジャニー喜多川の言う「人間性とやる気」は、実際の現場ではどう判断されているのでしょうか。まずは、ジュニアの選抜の段階。そのオーディションでは、主に人間性をジャッジしているようです。
1990年代半ばには、1カ月に約1万通は送られてきていたという履歴書を、ジャニーは自らの手で見るといいます(※2)。
「夜にパッパッパッだけど、送られてきた履歴書は全部、自分で開けて、自分で見ます。これだけは何十年やっているけど、人の手を借りたことはない(※3)」
そして、オーディションは基本的に突然開催されます。
「スケジュールが空いた時、時間がもったいないからオーディションをやろうと、急にやるんです。突然速達で報(しら)せが行くから、受ける方も大変じゃないかな(※1)」
突然、ということは、受ける側もオーディションを受ける予定を最優先しなければいけないということ。オーディションのみならず、ジュニアには突然の「YOU来ちゃいなよ」はよくあることで、それに対応できるかどうかで、“やる気”を判別しているのかもしれません。