さらに怖いのは民事責任だ。たとえば民事で1億円の損害賠償責任を負ったとしよう。親は年金暮らしで、賠償金を払いたくても払えない。自己破産させればいいと考えるかもしれないが、そうは問屋が卸さない。破産法第253条1項で、「悪意で加えた不法行為」や「故意や重い過失により加えた人の生命や身体を害する不法行為」に基づく損害賠償債務は免責されないことが定められている。

「飲酒運転や無免許による事故は当然、免責されません。高齢者講習で問題が見つかったのに免許を返納せず事故を起こした場合も、重過失があったと判断される可能性が高い」

損害賠償債務は子が引き継ぐ

子に直接影響が出るのは、親が損害賠償を払い終える前に死亡したときだ。損害賠償債務は相続の対象で、親が亡くなれば相続人が引き継ぐ。

引き継ぎたくなければ、相続の放棄も可能だ。ただし、債務だけを放棄することはできず、放棄するならプラスの財産の相続も諦める必要がある。親の財産と関係のない生活をしているなら放棄しても問題ないが、親名義や共同名義の家で暮らしているようなケースでは、それも困難だ。

相続放棄できる場合も、親戚との関係に注意が必要だ。

「子が相続を放棄すれば、相続順位に従って相続人は親の親(祖父母)、あるいは親の兄弟姉妹(おじ、おば)に移ります。祖父母が故人で子が相続を放棄すれば、債務はおじやおばに。おじやおばが故人なら、その子であるいとこが代襲相続で債務を引き継ぎます。トラブルになりやすいので、よく話し合ってください」

ちなみに債務を特定の相続人に寄せるのも不可だ。たとえば「長男が家を継ぐから債務も長男に」と相続人の間で取り決めることは可能だが、債権者である被害者にはその取り決めは関係がなく、次男も損害賠償の支払いを求められたら応じなくてはいけない。

自分の暮らしを守るためにも、免許を返納するよう親を説得したいところだ。

(コメンテーター= NEXTi法律会計事務所 代表弁護士 萩生田 彩 図版作成=大橋昭一)
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