この4月から金融庁が金融機関に対して貸し渋り、貸し剥がしの実態調査を順次行っている。大手銀行や信託銀行のほか、苦情の多い地方銀行にも立ち入り検査を行うという。
BIS(国際決済銀行)規制により、国際業務を行う銀行は自己資本比率8%以上、国内の業務に限る銀行では4%以上を保つ必要がある。債権が多いほど自己資本比率は低くなるため、BIS規制の基準を満たすためにも債権を縮小する必要がある。これが貸し渋りの要因だ。
貸し渋り、貸し剥がしは、企業へのダメージが大きい。一方で、金融機関の破綻といった金融不安も起こしてはならない。であれば、BIS規制の基準を満たせるよう、貸し剥がしとは別の策を講じる必要がある。有効と考えられるのは、公的資金の注入だ。
自己資本比率は、大まかにいうと「自己資本÷リスクアセット(危険資産)」で求められる。公的資金を注入して自己資本を増やせば、債権を圧縮せずに自己資本比率を高めることが可能になる。
昨年12月には、改正金融機能強化法が施行され、金融機関に注入する公的資金枠は2兆円から12兆円に拡大された。資本注入に当たって経営責任は問わないなど、条件も緩和されている。実際、今年3月には、北洋銀行、南日本銀行、福邦銀行の地銀3行に対して、計1210億円の公的資金注入が決定した。これにより、3行の自己資本比率は8~9%台になるという。
金融庁ではその他の金融機関にも利用を促す考えだが、現在のところ、申請の動きはみられない。現状では、公的資金注入という宝刀を用いた貸し渋りの解消は期待しにくい情勢だ。金融機関による融資が滞るということは、すなわち資金が流動しないということである。人間の体にとたえれば、動脈硬化を起こして血液が回らなくなるのと同じことだ。
それなら預金などで集められた資金は銀行に滞留してしまうのか。一般的な事業会社であれば資金を設備投資などに用いることもできるが、銀行は預金を集め、融資を行い、その利ざやを稼ぐのが基本である。資金の流動性を供給する、つまり融資を行うことこそ、金融機関の使命なのだ。
そのためには、債権のクオリティを保ち、貸し倒れを起こさないように管理することが命題となる。しかし、自己資本比率をBIS規制がクリアできる水準に維持するためには、融資を増やすわけにはいかない。すると、リスクアセットとして換算する必要がない国債を買うか、現金を増やすしかない。