バックオフィスを同僚と呼ぶのは日本だけ

スペシャリストは両者の中間で、組織に属していることもあれば、そうでないこともある。その典型が医師で、どこかの病院に属して「勤務医」として働く人もいれば、独立して「開業医」になる人もいる。弁護士や会計士などのいわゆる「士業」も同じだし、プログラマーやコンサルタントにも組織に属する人とそうでない人がいる。

組織に属していないクリエーターやスペシャリストは「フリーエージェント(自営業)」になる。ここまでは世界共通だが、バックオフィスと(組織に属している)スペシャリストの働き方は日本と世界で大きく異なる。

世界と日本では働き方がちがう

欧米の会社ではスペシャリストとバックオフィスの仕事は明確に分かれている。ゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーなどの投資銀行を例にすると、スペシャリストは株式や債券を売買したり、顧客(機関投資家)に営業したりする仕事で、バックオフィスはその取引を記録するのが仕事だ。スペシャリストとバックオフィスはまったくちがう世界に暮らしており、同じ会社でも互いを同僚と思っていない。

世界では専門性がないと話にならない

一方、日本ではバックオフィスの仕事は主に非正規社員が担っているが、正社員の中にも同じ仕事をしている人がいて、混然一体なっている。正社員の中でも誰がスペシャリストで誰がバックオフィスなのかはっきりしておらず、人事異動によってスペシャリストとバックオフィスを行き来することもふつうに起こる。これを欧米のビジネスパーソンが聞いたら、腰を抜かすほど驚くだろう。

日本と世界で働き方の意識が大きくちがうことは、初対面の外国人と話をすればすぐに分かる。最初の会話で「お仕事は何ですか?」と聞くのは万国共通だが、日本人は「トヨタです」とか「武田薬品です」とかの社名を答えてその場の雰囲気を凍らせる。その外国人は「どこの会社ですか?」と聞いているわけではなく、「車のエンジンを設計している」「医薬品の広報している」など、相手の「専門(スペシャル)」を質問しているのだ。

これはメディアも同じで、海外で新聞記者に仕事を尋ねれば、「政治ジャーナリスト」など自分の専門を伝え「どこに記事を書いているのか」と聞かれてはじめて寄稿している新聞名を答えるだろう。ところが日本では、ほぼ100%「私は朝日新聞」などの答えが返ってくる。個人と会社が一体化してしまっているのだ。