世界一会社を憎む日本のサラリーマン

年功序列・終身雇用の日本的な雇用慣行は「ゼネラリストを養成する」との建前の下で、社内でさまざまな部署を異動させ、転勤も当たり前で、会社に「滅私奉公」する社員ばかり生み出してきた。こんな働き方をしていれば、なにひとつ「スペシャル」な知識や技術が身に付かないまま年をとっていくしかない。

20代で仕事を覚え、30代で課長になり、40代でバリバリ働けば、50代で出世して楽できる。そうこうしているうちに定年を迎え、退職金と年金で悠々自適な老後生活が待っている。――こんな人生が実現できたのは70代以上の団塊の世代までだ。

高度成長期の「サラリーマン物語」はいまや完全に崩壊してしまった。平均寿命は90歳に近づき、定年を70歳に引き上げなければ年金制度は維持できないといわれている。20歳で「終身雇用」の会社に就職したとすれば、同じ会社に50年もいることになる。しかも、幹部になれるかどうかは30代で決まるといわれている。出世レースから脱落したあと30~40年も会社にしがみつくしかないとすれば、日本のサラリーマンが世界でいちばん会社を憎むようになり、生涯現役を「無期懲役」と考えるのも無理はない。

欧米で老後問題が炎上しない理由

それに対して、欧米で定年が大きな問題にならないのは、多くの人がスペシャリストとして働いているからだろう。彼ら/彼女たちは自分の専門分野を決めて、転職しながらキャリアアップしていくのだ。

ここで世界と日本の働き方のちがいについて、少し説明しておこう。

グローバルスタンダードの働き方には、大きく分けて3つの種類がある。①クリエーター、②スペシャリスト、③バックオフィスだ。

クリエーターはクリエーティブ(創造的)な仕事をする人で、すぐに思い浮かぶのは作家やマンガ家、俳優やミュージシャンなどの芸術家(アーティスト)だろうが、プロのスポーツ選手やベンチャー起業家も含まれる。スペシャリストは何らかの「スペシャル(専門)」を持っており、バックオフィスは「事務系」の仕事だ。

3つの働き方で大きくちがうのは、「組織に属しているかどうか」だ。リスクは大きくてもいったん成功すれば青天井の収入が入ってくるクリエーターは会社に属していない。サラリーマンをしながらライブハウスのステージに立つミュージシャンはいるだろうが、音楽活動で会社から給与をもらっているわけではない。

それに対してバックオフィスは、非正規社員やパート、アルバイトなど雇用形態はさまざまでも、全員がどこかの組織に所属している。事務系の仕事は、それを発注し管理する会社がないと成り立たない。