【金井】その点は同意します。効率を高められる余地は十分にあるし、やらなくてはならない。物流の現場だけでなく、小売業の現場も、無用な労働がまだまだたくさんある。その部分はテクノロジーで解決していかなければいけないと思っています。ただ、これだけ加速度的に文明が変わっていくと、人間がどんどん自己家畜化していくように思います。便利になったり、快適になったりという文明の発達が、むしろ人間そのものを退化させてしまうというリスクもある。

小売りの未来は極めて明るい

ダグ・スティーブンス『小売再生

【ダグ】さまざまな問題を抱えてはいますが、私は小売りの未来は極めて明るいと思っています。ウォルマートに代表されるような大手チェーンが成長した時代というのは、小売りにとっての暗黒時代だったと思います。利益を追い求め、魂がなく、ただただ買わせることだけ。環境への配慮もなかったし、社会的責任という意識もありませんでした。ですが、いまは暗黒時代の業態がどんどんなくなってきています。しかも昨今では、スタンフォードやMIT、ハーバード大学を卒業したような優秀な若者たちが、続々と小売り業界に流入している。彼らのようなエネルギッシュで、クリエーティビティに溢れた人たちが、新たな小売り像というものをつくり出し、小売りにとっては明るい未来を示してくれるのではないかと思っています。

【金井】ぜひ小売りの世界に多様なスキルを持った人が集まってきてほしいですね。無印良品の活動は、店舗にとどまりません。分断された生産者と消費者、あるいはお年寄りと若者、あるいは都会と地方。これらをつなげていく仕事が、これからの小売りの使命になると考えています。また良品計画では2019年から、社員だけでなく、パートナー社員にも、自分の特技やスキルのある人には、毎月少しですが、そこに手当を出すことを始めました。自分の持っているスキルを生かすことが、たとえば空き家再生とかシャッター商店街の活性化といった社会課題解決の力になるのではないか。それをやっていけば、少しは明るい未来になるのではないか、と思っています。

金井政明(かない・まさあき)
良品計画 会長
1957年、長野県生まれ。76年西友ストアー長野(現・西友)に入社。93年に良品計画に転籍。商品事業部生活雑貨部長などを経て2008年から代表取締役社長。15年より代表取締役会長。
ダグ・スティーブンス(Doug Stephens)
小売りコンサルタント
リテール・プロフェット社創業社長。メガトレンドを踏まえた未来予測は、ウォルマート、グーグル、BMWなどにも影響を与えている。著書に『小売再生 リアル店舗はメディアになる』。