【ダグ】なるほど。消費者の現在の習慣、ライフスタイルを変えることで、世界が直面している社会問題や環境問題を解決していこう、という考え方で商品開発をなさっているわけですね。

【金井】そうした思想をもとに、商品のデザインを行い、そういった物が置かれる空間はどのようなものがいいか、とBGMなども含めて店舗空間のデザインを行っています。また、インフォメーションのデザインも同じ思想のもとにしています。インフォメーションのメディアは、ポスターやウェブサイトなどもありますが、まずは商品タグです。我々の商品タグには、それぞれ、どんな理由でこの商品をつくったか、という言葉がすべてに入っています。

小売りコンサルタント ダグ・スティーブンス氏

【ダグ】ストーリーですね。一つ一つの商品にストーリーがある。

【金井】そう。我々は「意味」とか「わけ」とか言ったりしています。無印良品では、これらを最初から最後まで一貫してデザインしている。こんな会社はなかなかないのではないでしょうか。

なぜこんなことができるかというと、我々は「答え」を持っていないからなのです。どの企業にも、企業理念には、社会貢献とか、社会の役に立つとか、当たり前すぎる「答え」が書いてあります。こういう会社になる、こういう仕事をする、という「答え」です。ですが、良品計画の目標は「最良の生活者を探求しましょう」といったものなので、我々はその「答え」を常に探し続けているのです。

【ダグ】多くの企業は「環境に配慮した企業になる」とは言いますが、いざ具体的な問題解決に対して投資をするかというと、短期的な儲けにつながらない限りはお金をかけない。そうした長期的視野に立って投資をしていくことができるからこそ、MUJIブランドが強固になっていく。

【金井】そこまで大したものではないのですが、この会社の経営も企業活動全体がすべてそこから始まっているというのは、たぶん誇れると思っています。

【ダグ】いまの時代は40年前とは比べようもないほど情報が行きわたっています。40年前にはお店にある野菜が、どこで誰が生産し、どんな過程を経て店にたどり着いたのかなどがわからなかったし、そもそも誰も興味を持っていませんでした。ですが、いまはお店に並ぶTシャツが、バングラデシュの工場で、劣悪な環境で働かされている人が作った製品だ、ということを世界の数百万人の目に届けることが可能です。無印良品の姿勢というのは、ものすごく時代に合っているように思います。

人間はテクノロジーに満足するのか

【ダグ】小売再生』の中でも述べているのですが、今後、リアルな店舗はメディア化していく、というのが私の主張です。その点、無印良品では、店舗をメディアとして捉えるような発想が、初期のころからあったのではないかと感じるのですが、そうした意識はお持ちでしたか?