米国人の約4割が臨時出費400ドルを工面できない
貯蓄より消費を優先させると、家計の不安定化も招きかねない。米連邦準備制度理事会(FRB)が今年5月23日に発表した米世帯の家計に関する報告書によると、2018年の結果はおおむねポジティブで、調査を開始した13年以来、米世帯の家計はかなり上向いているものの、400ドル(約4万3000円)の臨時出費があった場合、誰かから借りたり、持ち物を売ったりしないと工面できない人が27%に上るという。打つ手がないと答えた人も12%いる。現金か貯金、クレジットカードで工面できる人は61%だった。
貯蓄の少なさは、老後の生活にもかかってくる。現役世代の36%が退職後の蓄えを準備していると答えた一方で、貯金も退職年金も積み立てていない人は25%に上るという(上記報告書)。
モノ選びの基準は「ときめき」ではなく「アイデンティティー」
現代日本史を専門とする米プリンストン大学のシェルドン・ガロン教授は、著書『Beyond Our Means:Why America Spends While the World Saves』(『収入を超えて 世界が貯蓄するのをよそに、なぜ米国人は浪費するのか』未邦訳)の中で、日本などの東アジア諸国や欧州に比べ、米国人は貯蓄が少なすぎる一方で浪費や借金が多すぎると指摘している。
たとえ5ドル(約540円)でもクレジットカードを使うキャッシュレス社会では、お金を持っていなくても散財しがちだが、ドルを使って経済を支えることが国への貢献だとする米政府の意にはかなっている。
こんまりブームは、こうした大量消費主義に長期的かつ広範な一石を投じることができるのか。「片付けの基準を『ときめき』に置くことは非常に有益だ」と、ル・ゾッテ氏は評価する。何かを「取得」する行為ではなく、モノとの個人的関係にフォーカスすることを重視しているからだ。
同氏によると、米国人は、その商品に「ときめき」を感じるかどうかではなく、自らの「アイデンティティー」を重ね合わせられるようなモノを選び、それを自分の「代用品」とみなすことが多いという。米国人が「持ち物との関係を育むことができるようになれば、消費者の購買傾向も変わりうる」と、ル・ゾッテ氏は言う。
ネットフリックスが、続編「リバウンドしない魔法の片付け法!」を放映できるよう、今後の「こんまりエフェクト」に期待したい。
ニューヨーク在住ジャーナリスト
東京都出身。『ニューズウィーク日本版』編集などを経て、1997年、単身渡米。米メディア系企業などに勤務後、独立。米経済や大統領選を取材。ノーベル賞受賞経済学者ジョセフ・E・スティグリッツ、「破壊的イノベーション」のクレイトン・M・クリステンセン、ベストセラー作家・ジャーナリストのマイケル・ルイス、ジム・オニール元ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント会長など、米(欧)識者へのインタビュー多数。『週刊東洋経済』『フォーブスジャパン』など、経済誌を中心に寄稿する傍ら、『ニューズウィーク日本版』オンライン、『経済界』にコラムを連載。現在、テクノロジーと米経済に関する本を執筆中。(mailto:info@misakohida.com)