“こんまりブーム”は、まるで線香花火のよう

多くの米国人にとって、今回のブームは「線香花火的な一時的流行」で終わるのではないかというのが、ル・ゾッテ氏の懸念だ。というのも、実質国内総生産(GDP)の約7割を占める米国の個人消費は、米連邦政府の消費奨励政策によってけん引されてきたものであり、長年にわたって、過剰な消費が推進されてきたからだ。「米国の政治経済が個人消費に依存している」と、同氏は言う。

第2次世界大戦後の米国では、第1次世界大戦が終結してから11年後に起こった大恐慌(1929~33年)の再来を恐れ、企業が消費を加速させるべく、製品の寿命を一定年数に抑える「計画的陳腐化(planned obsolescence)」が普及するようになった。買い替える必要がないモノを定期的に買わせるよう仕向ける、このマーケティング戦略は「第2次大戦後の一大イノベーション」(ル・ゾッテ氏)とも言えるもので、自動車やファッションからはじまり、多くの市場に浸透していった。

米国の大量消費文化は、フランクリン・ルーズベルト大統領が大恐慌を脱すべく、1933年にケインズ経済学に基づくニューディール政策を導入し、経済成長の尺度を「消費意欲(consumer confidence)」に置くようになったことにさかのぼる。それ以来、賢明な購買決定を行うという「質」ではなく、消費する「量」が重視されるようになった。「どれだけドルを使うかが、米経済の健全性を測る尺度なのだ」(ル・ゾッテ氏)。

米国人は浪費とモノの処分を繰り返している

第2次大戦後、核家族化が進み、世帯ごとの同居人数が減る中、住宅のサイズが大きくなったことで余剰空間が増え、多くのモノを詰め込めるようになった。モノを買うことで落ち込んだ気分を高揚させる「買い物セラピー」が象徴するように、購買行動を幸福感と結び付け、娯楽とみなす文化の下では、不必要なモノまで買い込みがちだ。

このような環境の下で、米国の消費者は景気後退や好況に応じ、浪費とモノの処分を繰り返してきたという。ル・ゾッテ氏いわく、こうした歴史的パターンを振り返ると、こんまりブームは米国人の購買意識の向上には役立つかもしれないが、「広範囲にわたる体系的な消費性向の見直し」につながるかどうかは未知数だ。

実際、米国では周期的に消費文化への反発が散見されてきた。どれだけ多くのモノを持っているか、どれだけ大きな家に住んでいるかで人間の価値が決まるような文化に対抗し、時折、ミニマリズムブームが起こる。モノが一種の飽和状態に達し、大半の人にとって「量」へのアクセスが可能になったことで、「質」にフォーカスしようとする動きが出てくるのは自然の流れとも言える。