図表4で、その全体像が分かる。加害者として事故原因になった場合を見てみると、多少のでこぼこはあるものの全体としてはほぼ横ばいで、少なくとも大きく増えてはいない。赤い折れ線グラフで表される他年齢に対しての比率のみに着目すれば確かに微増傾向にあるが、その増加率すら10年前からほとんど一定、少なくとも、この数年でいきなり高齢者の事故が増えたという事実はないし、比率が急に高まっているわけでもない。

「悲惨な事故の多さに……」という話は、メディアの取り上げ頻度による印象であり、統計上は少なくともそういう話になっていない。ただし、「減っているから良いではないか?」ということにはならない。死傷者ゼロを目指すべきなのは事実である。だからもっと事故を減らしましょうという話には同意できるのだが、悲惨な事故が急増しているので緊急対策をという話には同意できない。それが思い込みにすぎないことは統計が裏打ちしている。

免許を取り上げればそれでいいのか

さてこの問題、多分一度整理が必要だ。「高齢者による暴走運転事故」はおそらくいくつかの要素に分けられる。

まずは一つ目、高齢者の運転能力の問題から。高齢になると運動能力や判断力が落ちるのは事実だ。何の対策もしなくて良いとは思わないが、かといって問答無用で運転免許を取り上げるのが正解とも思えない。都市部に限れば、代替交通手段があるので、その人の環境によっては何とかなるだろうが、地方へ行くとどうにもならない。

広島県三次市作木地区でNPO法人「元気むらさくぎ」が運用する助け合いライドシェアサービス。マツダが車両を提供している(撮影=高根英幸)

坂道を20分も歩かないとバス停にたどり着けず、そのバス停の発着時刻表にあるのは朝昼晩に1本ずつという様な状況で、どうしろと言うのか? 家族が面倒を見られる環境ならば良いが、そうでなければ通院も日々の食料調達もままならない。

厚労省の統計資料「国民生活基礎調査の概況」の19ページの表組みを見ると、60代で約6割、70代以上では7割以上の人が通院を必要としていることが分かる。もちろん中には通院まで必要ないケースもあるのだろうが、当然命に関わるケースもある。

「高齢者が子供をはねた」という事実は重たいが、それで免許を取り上げれば、「通院できなくて死ぬ」人も出てくる。交通事故死と病死ではショッキングな印象に差があるだろうが、人の命に軽々しく軽重は付けられない。

この問題の本質は道徳的ジレンマを起こす「トロッコ問題」(Wikipedia参照)である。だから両方を助ける努力をこそ議論するべきだ。