「BSE問題で責任は取ってもらいましたが、政府は彼の行政手腕を高く評価していました。農水省高官としては初の起用だったのですが、もともと国際派の人材ということもあり、現地で大活躍してもらいましたよ。
彼の功績もあり、その後、農水官僚が必ず一枠、外国の大使になれるようになりました。外交で大使とは天皇陛下の代理人であり、それは農水省にとってはとても名誉なことなのですよ」(飯島氏)
熊沢容疑者は大使退任後、農協共済総合研究所の理事長に就任したほか、農林水産省退職者の会会長も務めた。
「キャリアの元トップでありながら、ノンキャリアの人たちからの信望もすごく厚いからこそ、退職者の会の会長が務まるのです。仕事ができるうえ、人格的にも立派なものを持った人というのが農水省関係者の評価ではないでしょうか」(福島氏)
そんな熊沢容疑者だが、なぜ息子を殺してしまったのか。
「うちの息子もあまり自慢できたものじゃないよ」
一般論として、官僚の仕事は多忙を極める。経済産業省出身の福島氏も「私も課長補佐時代は、電車で帰れることは滅多になかったです。月の残業時間は200時間くらいでした」と語る。組織の構造として職員に家庭を顧みる余裕などなく、子育てに関われない官僚は多いのだろう。国へのコミットが大きい優秀な人材ほど、その傾向は強いのかもしれない。
「英昭氏のプライベートのことはよく知りませんが、18年末の忘年会で5~6人で飲んだときに、私が『うちの子がゲームばかりやって困っている』と言ったら、ちらっと『うちの息子もあまり自慢できたものじゃないよ』と。『子供って思いどおりに育たないですよね』、といった会話をしたことを思い出しました。しかし、そこまで深刻だということはわかりませんでした。
罪は償わなくてはいけないのでしょうが、どうやったら英昭氏を助けられるだろうかというような話を仲間とはしています。『官僚の鑑』だった方がこうした事件を起こすというのが、人間の不条理さですね」(福島氏)