「やっていないのに認める」は絶対にダメ
「新聞社ならそこから裏取り取材をしに関係者に当たりにいくべきなのでしょうが、新聞社には日々、全国から大量の事件情報が各都道府県警察から送られてきます。全部の事件の取材なんて当然できないですし、殺人事件などでない限り、原則警察からの情報ソースのみで記事化を判断します。それに、仮に実名報道をした後に冤罪の疑いが強まったら、担当した記者やデスクに何らかの責任が問われる可能性が出てきます。誰も下手は打ちたくないのです」
記事化さえされなければ、会社も痴漢事件のことを把握しにくいだろう。弁護士を通して家族に『急病で緊急入院した』と会社に伝えるよう、指示を出すことも可能だ。インターネットに容疑者として自分の名前が残ることもない。
その後の捜査で証拠が出てこなかったら、警察は容疑者を釈放せざるをえない。警察からの取り調べは、時に厳しくなり、長期化するとついつい警察の言うとおりに認めたくなってしまうときもあるかもしれない。
「ここで認めてしまうと、真実はどうであれ、新聞社は記事にしやすくなります。警察からのプレッシャーに耐え続けて、否認し続けるべきなのです」
○:痴漢冤罪なら絶対に罪を認めない
×:早く取り調べから解放されたくて、やっていないのに認める
佐藤智一氏(仮名・33歳・新聞記者)
全国紙に入社後、西日本の地方都市で警察や行政を担当した後、大阪社会部で大阪府警の本部担当を経験。その後、本社経済部に異動した。現在はフリー記者として活動している。(撮影=鈴木俊之 写真=iStock.com)