幼稚舎出身者が慶應のカルチャーをつくる

一方、小学校から大学まで一貫で学ぶ弊害はないのだろうか。エスカレーター式に大学まで進めることが約束されているので、勉学をおろそかにしてしまうこともあるのではないか。齋藤氏も「確かに、小学校から上がってきたいわゆる『内部』の子の中には中学校や高校で留年する場合もある」と言い、大学から慶應義塾に入った学生によれば「語学の授業で苦労しているのはやはり付属校、それも小学校から上がってきた子が多いように思う」という意見もあった。

ただ、慶應義塾大から商社や銀行など一流企業への高い就職率を考えるとさほど問題視することもないのかもしれない。斎藤氏によると、小学校から大学まで上がってきた子たちの多くにみられる共通点があるという。

「ずっと一貫校で過ごしているわけですから、のびのびとしたムードメーカーになる人が多いですよ。とりわけ慶應は縦や横のつながりを大切にしますので、そういう人たちはそこを上手に活用していますね。そういうこともあってか、大人になって社会で活躍している人ばかりですよ」

前述した「三田会」の存在もあり、慶應OBの結束力は他大を圧倒しているといえる。

中学受験では早慶付属に「穴場」があるのか

それでは、中学受験ではどうか。首都圏の早慶付属(系属)校に目を向けると、次の選択肢がある。

早稲田大学の大隈講堂(写真=iStock.com/mizoula)
●早稲田大学高等学院中等部(男子校)、早稲田実業学校中等部(共学校)、早稲田中学校(男子校)
●慶應義塾普通部(男子校)、慶應義塾中等部(共学校)、慶應義塾湘南藤沢中等部(共学校)

もちろん、6校とも難関校の一角に位置している。なお、系属校の早稲田中学校高等学校からは早稲田大学進学者はおよそ半数であり、残りは東京大など難関国公立大へ進む者も多い。

どの学校の入試も基本的には算数・国語・理科・社会の4科目実施だが、2019年度入試より慶應義塾湘南藤沢中等部で大きな入試制度改革がおこなわれた。この従来の4科目入試とは別に、算数と国語に英語を加えた合計3科入試が選択できるようになったのだ。帰国生でなくとも、幼少時より英語学習を本格的に取り組んできたような子にも門戸が開かれたということである。

中学から入れる早慶付属(系属)は地方にもあり、そのうち2校は「お買い得」と言えるかもしれない。

1校は共学校の「早稲田佐賀中学校」だ。佐賀県と聞いてピンとくる人もいるだろう。そう、早稲田大学の創設者・大隈重信は、佐賀藩藩士の長男であった。その生誕の地に開校したのである。創立は2010年。まだまだ新しい学校である。この学校の中学入試は首都圏会場(早稲田大学)も設けている。中高そして男女ともに寮制度も導入していて、首都圏から入学する子も多いのが特徴的だ(毎年1月に都内で受験できる)。

大手塾「四谷大塚主催『合不合判定テスト』2019結果偏差値一覧表(80%ライン)」によると、早稲田佐賀の男子は偏差値54・女子56となっている。

そして、もう1校は大阪府茨木市にある共学校の「早稲田摂陵中学校」だ。2009年度よりそれまでの摂陵中学校が早稲田大学の系属校となり、寮制度も整えた。偏差値は男子44・女子45である。

早稲田実業の偏差値は男子64・女子69、早稲田中学の偏差値は64、早稲田大学高等学院中等部の偏差値が63であることを考えると、早稲田佐賀と早稲田摂陵は入り口のハードルが低いと言える。ただし、気をつけなければならない点がある。

今春、早稲田佐賀の卒業生数194人のうち、早稲田大学への推薦者数は109人。全員が早稲田への道を約束されているわけではないのだ。早稲田摂陵にいたっては、卒業生数317人のうち早稲田大学への推薦者数はたったの31人。10%にも満たない。