チョコレートか、それとも、ご飯か
深夜にふとラーメンが食べたくなる。お酒を飲んだあとに、どうしてもラーメンで締めたくなる。大人になるとよくあることですが、なぜそのような心理が働くのでしょうか。
先に結論を言うと、この現象は「パヴロフの犬」の原理で説明できます。この原理は、理科の教科書にも載っているので、ご存じの方も多いでしょう。パヴロフの犬の原理とは以下のようなものです。
犬にエサの肉片を与えると同時に、ベルの音を鳴らす。これを繰り返すと、ベルの音を聞いただけで、犬は肉を期待して涎を出すようになる。心理学の専門用語では、このベルの音を「手がかり刺激」といい、涎が出ることを「条件反応」といいます。
つまり、深夜に空腹を感じたときや、アルコールを摂取したときにラーメンを食べる経験を繰り返すうちに、これが手がかり刺激となり、ラーメンを食べたいという条件反応が生まれていると考えられるのです。
ある特定の食べ物について我慢できないほど食べたくなる気持ちは「食物渇望」と呼ばれます。日本に比べ、特に欧米で研究が進んでおり、食物渇望の代表例はチョコレートです。肥満が社会的課題になっているアメリカでは「シュガーアディクション」、つまり糖分への渇望を抑制するための研究も進められています。
日本でも、小松さくら先生(現職・中央大学研究開発機構)を中心に、学生を対象にした食物渇望の調査が行われました。その結果、男性、女性ともに渇望する1位は、ご飯という結果になりました。ご飯を求めるのは日本に特徴的な結果です。炭水化物であることはもちろんですが、日本の食文化として、味が濃かったり、ご飯のお供になるおかずがあると、白飯が欲しくなるもの。それゆえ、1位になったのだと思われます。
テトリスで3分遊んでみたら
この調査では、ラーメンは男性の2位でした。ただし、調査対象が大学生であり、「飲んだあとのラーメン」「仕事のあとの夜食」といった経験自体が少ないことも、結果に影響しているでしょう。先輩に連れられて行くなど経験が増えるほど、手がかり刺激とラーメンの関係が構築されて、深夜にラーメンが食べたくなるというわけです。
深夜のラーメンは蠱惑的ですが、健康にはあまりよろしくありません。どうすればやめられるのか。手がかり刺激による渇望の増強を長期的に抑えることが必要です。パヴロフの犬の場合、1度条件反応を身につけると、例えば1年後にベルの音を聞いても涎を出します。時間だけでは解決しないのです。打ち消すには、ベルの音が鳴っても肉片がもらえないという新たな経験で記憶を上書きするしかありません。ラーメンの場合、深夜や飲んだあとにラーメンを食べないという経験を繰り返して、上書きすればいいのです。
おすすめの方法として、渇望は一時的なものなので、その場で気を紛らわすこと。海外の研究では、テトリスを3分遊ぶと渇望が低くなるとわかっています。チカチカとする視覚的な刺激が、食物への欲求を阻害する効果があるのです。