ワクチンが確保できないことがある
ひとつは、ワクチン確保の問題だ。国全体として供給量には限りがある。2018年は、春先に麻疹が流行して成人への接種需要が増えたため、MRワクチンは一時的に供給不足になった。またインフルエンザワクチンも製造工程の事情で例年より供給が遅れた。このため卸業者は注文をうけても無制限には販売できず、前年度の使用実績をみながら配分していたようだ。
国内での生産が間に合わないのであれば輸入ワクチンを使う方法もある。例えば当院では、MRワクチンの代替としてMMR(麻疹風疹おたふくかぜ混合)ワクチンを個人輸入している。国内では過去に髄膜炎の発生が問題となり導入されていないが、現在は問題ないとされている。
しかし個人輸入をしているクリニックは多くはないだろう。MMRワクチンは国内未承認だ。未承認医薬品の輸入は、厚生局が発行する薬監証明の取得など手続きが煩雑だ。これは輸入代行業者を利用すればいいが、まとまった数量で発注するので事前に支払う費用はそれなりに負担となるだろう。小児の定期接種には使えないから成人への接種数が少なければ不良在庫となる。MMRワクチンを出張接種で用いるのが便利ではあるが、後述するようにクリニックとしては手続き上の面倒くささがある。
出張接種ができることを知られていない
ふたつめは、出張接種をする手続きである。出張して行う予防接種は通常、巡回診療として届出を行う。インフルエンザワクチンは一般的に行われているが、MRワクチンの集団接種をしたことがある医療機関は少ないだろう。まとまった数のワクチンが確保できない以外に、前例がなく「MRワクチンを巡回診療で接種できる」と知らないことが障壁だ。
MRワクチンは予防接種法に掲げられた疾病の予防を目的とした予防接種だ。平成7年の厚生省健康政策局長通知では、定期接種の対象年齢以外の者に接種する場合でも巡回診療として法令が適用されることが示されている。しかし数年前までは保健所の反応は厳しく、必要性と適法性について理解を得られるまで、上記の通知について根気よく繰り返し説明しなければならなかった。
一度実施した後は、前例があるからか比較的話が通りやすくなった。さらに平成27年3月に任意の予防接種でも巡回診療として実施できることが改めて通知された後は、対応が柔軟になったと感じている。