集団接種にすると、安くて、早くて、安全

このような集団接種で着目すべき点としては、費用、時間、安全性が上げられるだろう。

まず費用だ。これは会社の福利厚生としてあてがえる。職場で麻疹や風疹が流行して生産性が低下したり、妊娠中の社員に不安が出たりするのを防ぐための投資である。そうすれば社員は個人負担をしなくても済む。自治体の助成を使える場合もある。実際、去年までに当院のMRワクチン出張接種を受けた企業の中には、若い世代への流行を防ぐ、会社としてのソーシャルアクションとして行う、医療機器メーカーとして当然である、などの考えを持って依頼してくださった企業が多い。

また接種される側にとって時間的制約は少ない。会社の建物内で行うので、仕事の合間に接種しにくることができる。かつ待ち時間をなるべく減らすため、同じ時間帯に集中しすぎないよう、事前に時間ごとに接種人数を割り当ててもらい、極端な混雑が発生しないようにした。

このままでは日本が麻疹と風疹の輸出大国に

安全性については、事前に説明文書と問診票を届けておき、持病など気になる点がある方は事前チェックしてもらうことにした。また注射をすると一部の人が迷走神経反射を起こすことがあるが、今回はそのような方はいなかった。

迷走神経反射の既往があるという申し出も特になかった。そういう方はあらかじめ集団接種をさけたり、個別にクリニックを受診していたりするのかもしれない。迷走神経反射が起きたときの応急処置ができるよう、念のために補液などの緊急医療品は持参して行った。

また妊婦は生ワクチンであるMRワクチンは接種できないが、インフルエンザワクチンは不活化ワクチンであり、妊婦がインフルエンザを発症すると重症化するため積極的に接種すべきである。これも事前に周知した。

Sa社やSe社ではMRワクチンとインフルエンザの両方の接種を行ったが、この2社は数年前から社員へのMRワクチン接種を積極的に推奨しており、担当者の方をはじめ社員の方もよく理解してくださっている。会社としてこのように動いていただけることは大変ありがたい。

2020年に東京五輪を控え、日本が麻疹、風疹の輸出大国とならないよう、成人に対する職場での集団接種を積極的に検討してもらいたい。

濱木 珠恵(はまき・たまえ)
医療法人社団鉄医会ナビタスクリニック新宿 院長
北海道大学医学部卒業。日本内科学会認定内科医、日本血液学会認定血液専門医。専門分野は、内科・血液内科・旅行医学。2016年4月より現職。生活動線上にある駅ナカクリニックでは貧血内科や女性内科などで女性の健康をサポート中。
(写真=iStock.com)
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