現代は「弱肉強食」だが、地球38億年の歴史を振りかえると、強者はたびたび全滅してきた。静岡大学の稲垣栄洋教授は「むしろ生き延びてきたのは、時代の敗者である弱きものたち。それらが逆境を乗り越え、進化して常に新しい時代を作ってきた」という。生物学が説く「逃げ回り続けることの効用」とは――。

※本稿は、稲垣栄洋『敗者の生命史38億年』(PHPエディターズ・グループ)の一部を再編集したものです。

弱肉強食が生物界の掟だが、強者がたびたび全滅したワケ

地球の歴史を振り返ると、色々なことがあった。うれしいときもあった。苦しいときもあった。しかし、生命はしぶとく生き延びてきた。そうだ、生き延びたものが勝ちなのだ。

世の中は弱肉強食だが、地球の歴史はどうだっただろう。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/tjhunt)

地球に生命が生まれてから、最初に訪れた危機は、海洋全蒸発とスノーボール・アース(全球凍結)であった。これは、地球規模の大異変である。

地球に生命が生まれたころ、直径数百キロメートルという小惑星が地球に衝突した。そのエネルギーで、すべての海の水が蒸発し、地表は気温4000度の灼熱と化した。そして、地球に繁栄していた生命は滅んでしまったのである。

このような海洋全蒸発は、一度ではなく、何度か起こったかも知れないと考えられている。このときに生命をつないだのが、地中奥深くに追いやられていた原始的な生命であったと考えられている。

こうして命をつないだ生命に訪れた次の危機が、地球の表面全体が凍結してしまうような大氷河期である。この時期には、地球の気温がマイナス50度にまで下がった、全球凍結によって、地球上の生命の多くは滅びてしまった。しかし、このとき生命のリレーをつないだのが、深海や地中深くに追いやられていた生命だったのである。

地球の異変で生き残ったのは、僻地に追いやられた生命

こうして地球に異変が起こり、生命の絶滅の危機が訪れるたびに、命をつないだのは、繁栄していた生命ではなく、僻地に追いやられていた生命だったのである。

そして、危機の後には、必ず好機が訪れる。

スノーボール・アースを乗り越えるたびに、それを乗り越えた生物は、繁栄を遂げ、進化を遂げた。真核生物が生まれたり、多細胞生物が生まれたりと、革新的な進化が起こったのは、スノーボール・アースの後である。

そして、古生代カンブリア紀にはカンブリア爆発と呼ばれる生物種の爆発的な増加が起こるのである。カンブリア爆発によって、さまざまな生物が生まれると、そこには強い生き物や弱い生き物が現れた。強い生き物は、弱い生き物をバリバリと食べていった。強い防御力を持つものは、固い殻や鋭いトゲで身を守った。