いま「金融界のアマゾン」として、関係者から注目を集めている銀行がある。シンガポールのDBS銀行は、銀行を意識させない銀行として、デジタル化を急速に進めている。その目標はグーグルやアマゾンなどのメガテック企業だという。立教大学ビジネススクールの田中道昭教授が、その戦略を解説する――。

※本稿は、田中道昭『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』(日経BP社)の一部を再編集したものです。

2018年12月05日、DBS(Development Bank of Singapore)上海支店(写真=Imaginechina/時事通信フォト)

「魔法の力で銀行をテクノロジー企業にする」

日本では一般的には知られていませんが、世界中の金融関係者から注目を集めている銀行がシンガポールにあります。それがDBS銀行です。DBS銀行は、金融専門情報誌『ユーロマネー』から「World’s best digital bank」の称号を、2016年と2018年の2度にわたり獲得しています。

DBS銀行がデジタルトランスフォーメーションを推し進めるにあたりベンチマークとしたのは、同業他社ではありませんでした。彼らが目指したのは、グーグル・アマゾン・ネットフリックス・アップル・リンクトイン・フェイスブックといったメガテック企業です。

DBS銀行はこれらメガテック企業の頭文字(G・A・N・A・L・F)に自らの頭文字Dを入れて、「G・A・N・D・A・L・F(ガンダルフ)」の一角を担う存在になると決意しました。

メガテック企業には、DBS銀行が見習うべき点がいくつもありました。例えば、グーグルのオープンソースソフトウェア志向。アマゾンのAWS上でのクラウド運用。ネットフリックスのデータを利用したパーソナル・レコメンデーション。アップルのデザイン思考。リンクトインの「学ぶコミュニティーであり続ける」こと。フェイスブックの「世界中の人々への広がりを持つ」こと。

こうしたメガテック企業と同等のカスタマーエクスペリエンスを提供し、なおかつビッグデータ×AIの活用で「察する」サービスを併せ持つ銀行があれば、確かに魅力的です。ちなみにガンダルフとは、映画『ロード・オブ・ザ・リング』の原作であるトールキン著『指輪物語』に登場する魔法使いの名前です。魔法の力で銀行をテクノロジー企業にする。そのような思いが伝わってきます。

「ジェフ・ベゾスが銀行をやるとしたら」と考えた

グレッドヒルCIOは、「もしアマゾンのジェフ・ベゾスが銀行業を行うとしたら、何をするだろうか?」という視点で徹底的に考えたと言います。そこから導き出された答えこそ、3つの標語「会社の芯までデジタルに」「自らをカスタマージャーニーへ組み入れる」「従業員2万2000人をスタートアップに変革する」でした。

何より、DBS銀行が金融ディスラプターから学んだのは、プラットフォーム戦略です。とりわけ、「自らをカスタマージャーニーへ組み入れる」という標語は、ジェフ・ベゾスが創業時に紙ナプキンにメモしたアマゾンのビジネスモデルに通じます。

アマゾンのビジネスモデルとは、「品揃えを増やす」→「お客様の満足度が上がって、顧客の経験価値が蓄積される」→「トラフィックが増える」→「そこで物を売りたいという販売者が集まる」→「品揃えが増え、お客様の選択肢が増える」→「お客様の満足度が上がり、顧客の経験価値がさらに蓄積される」→「さらにトラフィックが増える」という成長サイクルを回すことにより、アマゾン経済圏を拡大していくことです。

そこには「低コスト体質」が前提であることや、「顧客は第1に低価格と品揃えを求める」というベゾスの信念が示されています。