二兎を追うポイント還元制度は失敗の可能性

昨年、政府は、消費税率の引き上げが予定されている2019年10月から翌年6月までの9カ月間にわたり、キャッシュレス決済の「ポイント還元制度」を時限的に導入することを決定した。具体的には、中小の小売店や飲食店でキャッシュレス決済をした場合、支払額の5%もしくは2%をポイントで還元するというものである。

この政策は、「消費増税の影響緩和」と「キャッシュレス化の推進」という二兎を追うものだと捉えることができる。また、筆者の知る限り、海外において、増税対策の一環としてキャッシュレス化推進策を打ち出した事例は見当たらず、政府のキャッシュレス化推進に対する並々ならぬ強い意志が感じられる。

ただ問題は、この政策が本当に二兎を追えるのかという点である。実際の予算規模や現場の対応などを踏まえると、この政策は、キャッシュレス化を促す「呼び水効果」が期待できる一方で、その効果は、限定的となる公算が大きい。

まず、政策の予算規模について考えてみよう。現在、ポイント還元制度の2019年度の予算額として、2798億円が計上されている。しかし、この額は、消費増税による負担増加額(約4.6兆円、軽減税率による負担軽減分を除く)の6.1%程度、2017年のキャッシュレス決済額(約65兆円)の0.4%程度にとどまる(図表3)。

ポイント還元予算額の規模感

また、この予算額は、①消費者還元分、②事業者補助分、③広告などの経費、から構成されており、いわゆる「真水」の政策(=①)の規模は、より限定的なものとなる。こうした現状を踏まえると、今後、2019年度の補正予算や翌2020年度の本予算において、さらなる予算額が計上されない限り、二兎を追うことは難しいと評価できる。

次に、中小・零細企業にとっては、ポイント還元のためのシステム導入コストや、カード会社へ支払う手数料などが重荷となることに注意が必要だ。政府は、ポイント還元制度を適用するために、カード会社の手数料を通常より引き下げることを条件に入れている。

しかし、それでも手数料負担を重く感じる中小・零細企業は少なくない。また、ポイント還元制度が終了すれば、その手数料が元の水準に引き上げられる可能性もあることから、システム導入に踏み切れないという声も聞かれる。そして、ポイント還元制度を実施する余力がない店は、「客を他の店に取られるだけ」で終わる可能性もある。

さらに、これまでに前例のないポイント還元制度の導入時や制度終了時において、企業や消費者の間に混乱が生じるリスクが存在する。その場合、本来なら便利な決済手段であるキャッシュレス決済が不便という印象を持たれることになり、結果として、キャッシュレス化の「失敗体験」になってしまう可能性がある。