高い現金流通高比率が示す根強い現金志向
日本は、こうした産官学の取り組みによって、キャッシュレス決済比率を政府目標の4割まで高め、キャッシュレス先進国に仲間入りすることができるのだろうか。
日本の現状を踏まえると、キャッシュレス決済比率は今後緩やかに上昇すると見込まれる一方、キャッシュレス先進国への道のりは遠いと言わざるを得ない。なぜなら、日本人の現金志向が他国よりも強く、その傾向がなかなか変わりにくいと考えられるためだ。この点については、現金流通残高対名目GDP比の国際比較(図表2)から読み取ることができる。
これまで日本は、他国より遅いペースながらもキャッシュレス決済の普及が進んできた。しかし、そうした環境下においても、現金流通残高対名目GDP比は、バブル期の約2倍の水準まで大きく上昇してきたことが確認できる。これは、キャッシュレス先進国のスウェーデンで現金保有が減少し、同比率が低下傾向になっていることと対照的である。
日本において現金流通残高対名目GDP比が上昇している主な要因を分析すると、(1)家計の金融資産に占める現金の比率が緩やかに上昇していること、(2)家計の金融資産そのものが増加していること、の2点を指摘できる。
とりわけ、前者は、日本人の現金志向が依然として根強いことを示している。この背景としては、①他国に比べて現金決済が便利で安心なこと、②その場で支払いが完結すること、③現金決済だと使いすぎる心配がないこと、④手元に現金を置くニーズが相対的に高い高齢者が増加していること、⑤超低金利環境の下で預貯金のメリットが低下していること、が挙げられる。
こうしてみると、日本では、現金決済の方が良いという状況が少なくない。そのため、キャッシュレス決済を促すようなインセンティブを与える仕組みを導入しない限り、本格的なキャッシュレス社会を実現することは困難だと言えよう。それでは、どうすればよいのか。
ここで消費者が決済手段を選択するときに重視する理由を確認すると、キャッシュレス決済を利用する人は、現金決済にはないポイントや割引などを重視する傾向にあることが分かる。そして、政府もこの点に目をつけている。