銀行はあとで「本当に売りたい商品」を売りにくる
事例その1:「退職金専用定期預金」
安全性と金利は高いが、預入期間は短い
これは名前の通り退職金専用の定期預金で、銀行や地銀、信用金庫などで取り扱われている。最大のメリットは、現在の金利水準の中では高金利であること。昨今の超低金利の影響から、都銀などを中心にこの定期預金の取り扱いを中止あるいは金利を大幅に引き下げる銀行が増えているとはいえ、それでも0.5~2%の金利が設定されている。
デメリットは、預入期間が1~6カ月程度と短いこと。そして、一定の条件が設けられていることだ。例えば、金融機関によって異なるが、預け入れは退職金を受け取ってから一定期間(1~3年など)以内、1人1回限り、預け入れの最低額(500万円以上など)および上限額(退職金受取金額までなど)、といった点は共通している。
このほか、投資信託やNISA(少額投資非課税制度)口座とセットにして、金利を上乗せしたプランや年金受取口座への指定などの条件を設けている銀行もある。
要は、金融機関にとっては末永くお付き合いいただくための顧客の囲い込み商品であり、退職金を受け取ってから、期間限定にして、アレコレ考える時間を与えないのも巧妙。預入期間の終了後は、銀行側が「本当に売りたい商品」(後述する事例2、あるいは事例3)を勧めてくること間違いなしだ。
そこで逃げ切りたいところだが、顧客としても、高い金利をもらったという、何となく後ろめたいものあるし、他にとくに運用のアテがあるわけでもない。それに何と言っても銀行なのだから、とんでもない詐欺まがいの商品を売りつけられることはないだろうという銀行への過剰な安心感が、判断を鈍らせてしまう可能性があるようだ。
事例その2:「投資信託」
手数料だけで収益分が飛ぶ!?
今や証券会社だけでなく、多くの銀行も積極的に取り扱っている投資信託。定年退職前に、退職金の運用についてセミナーを受講して、リスク分散が大事だということを勉強したAさん(62歳)は、証券会社で勧められて、退職金のうち300万円をバランス型ファンドに投資した。
国内外の株式や債券など複数の資産に投資するもので、大きく増えることはないが、普通預金に預けっぱなしにしておくよりはマシだろうとAさんは考えた。
運用成績も、最初の半年間は順調そのもの。これだったら、もっと追加投資したほうが良いのではと考えたAさんは、ちょうど満期を迎えた定期預金200万円で、もう少しリスクの高い新興国に投資する海外株式ファンドを購入した。老後資金を順調に増やしていけるように思えた。
ところが半年後、証券会社から届いた運用報告書を見ると、ファンドが2つとも値下がりしていた。とくに、追加投資した海外株式ファンドは2割も減少している。
しばらく様子を見ていたものの、なかなか基準価額が元に戻らないことに業を煮やしたAさんは、損切り覚悟で、すべて売却してしまったという。
投資信託の中には、退職金向けの安定運用重視と銘打ったファンドが数多く用意されている。Aさんが投資した、さまざまなアセットクラスに投資して、リスク分散ができるバランス型ファンドもそのひとつだ。
投資信託を選ぶ際に、運用成績ばかり気を取られている人も多いが、実は、手数料やコストにもっと注意を払うべきである。コストは、収益が出なくてもかかるものだし、多少値上がりしていても、コスト分で吹っ飛んでしまう。