さて、実際の母の介護に際してだが、母にかかる費用は母の年金から支払ってもらうことを原則に考えたい。むろん、アパート代や食費、光熱費など生活費すべてにおいてである。また、母の面倒は専業主婦だったCさんの妻が見ることになる。その分のお金として毎月5万円を支払ってもらう形が理想的だ。

こうしたお金の管理ややり取りにおいては、民事信託(家族信託)を活用する形で弁護士に契約書を作ってもらい、信託口座の管理を厳格に取り決めるのも1つの選択肢。家族間での取り決めやお金のやり取りは、つい口約束ですませがちで記録にも残さないことが多い。だが、親の認知機能が確かなうちから民事信託の契約をしておけば、認知症になってからも親のお金を子どもが管理することができる。つまり、銀行口座が凍結されてお金を動かせないというリスクを避けられるのだ。

とはいえ、民事信託を利用するにも注意が必要だ。後々問題とならないような民事信託の契約をするには、民事信託に精通した信頼できる弁護士、司法書士、税理士などの専門家を探さなければならないが、これがまだまだ少ないだけに、最初の難関となる。また、民事信託向きの銀行口座を用意してくれる金融機関も少ないのが実情だ。ほかの法定相続人の同意を得ておくことも必要であり、これは先に触れた実家の売買に際しても注意したほうがいい。

ともかくCさんの場合は、母の目先の介護についてはめどが立ちそうだった。ただし、いずれ母が老人ホームなど介護施設に入る必要が出たとき、待機期間はどれくらいか、待機中に代替となる施設はあるか、それぞれ母の年金で賄えるのかどうかなどを事前に調べ、そうした将来に向けてかかる母のお金についてもCさんが動かせるよう、民事信託の契約をする際に考慮しておいたほうがいいかもしれない。介護施設の現状を調べることは、自分たちの老後を考えるうえでもメリットとなる。

一方、そのCさん夫婦自体の老後における懐具合はどうかというと、退職金がたっぷり出ることもあり生活に窮することはなさそうだ。ただし、収入がそこそこよかったこともあり、節約は考えず、なんでもワンランク上のちょっといいものを選ぶ生活に慣れてしまっているのが気がかり。長い老後生活を考えれば、徐々に生活水準を落としていったほうがいいだろう。家計簿の「BEFORE」時の多少残るくらいの生活から「AFTER」のようにほんの少し支出を見直すだけでも、月10万円は浮くはずだ。

また、妻が5歳年下であることを考えると、60歳定年後も再雇用制度を利用し、年金受給開始となる65歳までは働くことをお勧めしたい。そしてCさんが65歳になると、晴れて年金を受け取れるわけだが、じつはその時点で60歳の妻も年金を受け取れる。それは「加給年金」と呼ばれるもので、厚生年金保険の被保険者期間が20年以上ある人が、65歳到達時点でその人に生計を維持されている配偶者または子がいるときなどに加算されるものだ。Cさんの妻のように1943年4月2日以後生まれの配偶者であれば、特別加算を合わせて年額38万9800円、月額3万2483円が支給される。ただし届け出が必要なので、利用する場合はくれぐれも忘れずに。

鬼塚眞子
FP
介護相続コンシェルジュ協会代表理事。同協会は弁護士、税理士、社会保険労務士などそれぞれに活躍する実務経験豊富な専門家で構成。介護、事業継承、相続問題などの相談にワンストップ・ワンテーブルで対応する。