人は皆それぞれにいいところと悪いところを持っています。悪いところは組織で補えるわけですから、いいところを伸ばせばいい。しかし逆に言うと4000人いれば4000のいいところがあるということは、一人一人が勉強して、それなりのプロにならなくてはならないということです。同じことを「軸足を持て」という言い方で、新入社員には必ず言うようにしています。何でもよいから自分の軸があると、その人は人生に自信が持てる。そうすると何か困ったときに、自分に返れるのです。

どうしても許せないのは挨拶ができないことです。少し前、守衛さんに挨拶しない人間がいる旨の匿名の社内メールが届きました。自分の目で確かめに行くと、守衛さんが「おはようございます」と声をかけてくれているのに、ろくに返事もしない社員がいる。そういうときは怒ります。「ふざけるな。伊藤忠パーソンだ何だと偉そうに言う前に、社会人としてやるべきことをやれ」とハッキリ言います。この社会人としての基本や土台があるからこそ、自分の軸をしっかり持つこともできるのだと思います。

3年間で600人以上の若手と対話をしてきた
3年間で600人以上の若手と対話をしてきた

4年前からは新卒だけではなく「キャリア採用」の制度も積極的に導入し、性別や、国籍も問わない「人材多様化推進計画」を進めています。しかし、上司と言われる世代は、まだそういう時代の流れに完全にアジャストしているとは言い難い。この意識を変えたいと考えています。

国際的な大競争時代を1人で勝ち抜くことはできません。5人、10人、そして100人のチームになって初めて勝つ可能性が生まれる。その意味では、本当に周囲に愛情を持ち、関心を払って、いい人材をピックアップし、多彩なチームを編成していかなければならない。そのための手段はコミュニケーションしかありません。

コミュニケーション能力というのは出身大学や大学の成績からはわからない。ですから、我々は人材を処遇するときに出身大学などは見ません。見るのは職場での評価です。上司についても部下とのコミュニケーションが取れているかどうかを最初に見る。そういう意味では、日々努力をして、いいコミュニケーターになることが1番大事な能力といえます。

コミュニケーションのためのインフラは昔に比べるべくもありません。社員に対する発信もボタン1つで即座にできるし、私宛の社内メールもボンボン飛び込んでくる。私自身、ずっとIT関連のセクションで仕事をしてきたので、デジタルは理解しているつもりです。しかし、会話というのはデジタルではありません。

今は何でもデジタルに落とし込もうという傾向がありますが、人と人のコミュニケーションは白か黒、0か1では割り切れない。もっとアナログなものです。性格1つとっても、陽気という見方もあれば、ちゃらんぽらんという見方もできる。だからフェース・トゥ・フェースが重要なのです。そこを忘れなければ、コミュニケーションの質と深さが違ってくる気がします。

(小川 剛=構成 小原孝博=撮影)