いかなる相手とのコミュニケーションであれ、私が一番大事に考えているのは、相手が何を言いたいのかを正確に把握することです。

昔からの習性で、話をするとき、私は必ず相手の顔、特に目の表情を見ます。シリアスな話をするときほど目は口ほどにものを言う。どれだけ本気なのか。口先だけなのか。どの程度勉強しているか。あるいはどういう計算があるのか――。結構わかるものです。

<strong>伊藤忠商事社長 小林栄三</strong><br>1949年、福井県生まれ。<br>72年大阪大学基礎工学部卒業。同年伊藤忠商事入社。<br>99年情報産業部門長兼情報産業ビジネス部長、2000年執行役員、03年常務取締役、04年4月専務取締役、同年6月から現職。IT業界に精通。<br>「三方良し」の精神で伊藤忠を世界企業にしたいという。
伊藤忠商事社長 小林栄三
1949年、福井県生まれ。
72年大阪大学基礎工学部卒業。同年伊藤忠商事入社。
99年情報産業部門長兼情報産業ビジネス部長、2000年執行役員、03年常務取締役、04年4月専務取締役、同年6月から現職。IT業界に精通。
「三方良し」の精神で伊藤忠を世界企業にしたいという。

ただし、上司と部下のコミュニケーションにおいては、上下関係という力学が作用していることも考慮しなければ、相手の本意はなかなか理解できません。会社の中でケンカをすれば必ず上司が勝つわけですから、まず上司の側に話を聞く姿勢がなければ、部下の思いというのは絶対に表に出てこない。

私の場合、まずは「言いたいことを言ってみろ」と言うように心掛けてきました。立場が上になると10のうち8、9を自分で喋っている人もいますが、会社組織において上司がやるといえば、部下は最終的にはついてこなければなりません。プロセスの最初の段階では、部下からいろいろな意見を言ってもらうのが正解でしょう。自分が言いたいことや思っていることを言う前に、極力、相手の話を聞く努力をする。

とはいえ、社長になると1対1で若い社員と話す機会というのはそう多くありません。社長に就任したときに私が一番危惧したのは社員から遠い存在になることです。社員の目の表情が見えないような遠い存在になったら現場の臨場感は失われます。現場の臨場感なくして、的確な経営判断はできません。