朝の「10分」を「1分」に変える

そもそも洗顔は、汚れを落とし、不要な角質を除去するために行うものだ。一般的な洗顔剤は泡によって古い角質を巻き込み、水の力で洗い流して落とす。洗顔には、髪の毛をまとめる、水または湯を出す、洗顔剤を泡立てる、泡で角質を浮かせる、洗い流す、タオルで拭く、という工程が必要だ。その後で化粧水、乳液、化粧下地などを塗るのが、スキンケアの一連の流れである。

女子開発ラボが洗顔とスキンケアにかかる時間を計測したところ、平均値は10分~15分だった。「目ざまシート」を使用した場合は1分で済む。朝の忙しい時間帯に余裕が生まれるのは大きい。

女性の「サボりたい」という潜在的な欲求に目を向け、女子開発ラボはサボリーノというシリーズ名でシートマスクの後継品を次々に生み出した。例えば、夜用のシートマスク「お疲れさマスク」や、全身の汚れを拭き取れる「さっぱり落とシート」などだ。

夜用のシートマスク「サボリーノ お疲れさマスク」(画像提供=BCLカンパニー)

「目ざまシート」も、季節に合わせてさまざまなフレーバーを開発した。冬には、保湿力が高いミックスベリーの香り、夏には、メントール効果を高めたレモンピールの香りなどがある。それぞれ顧客からの声が反映されており、選ぶ楽しみができたと好評だ。

さらに販路の拡大にも取り組んでいる。当初はロフトや東急ハンズなどのバラエティショップが中心だったが、2016年以降はドラッグストアでも販売。空港や飛行機内でも取り扱いがあるそうだ。値崩れしてブランド価値が落ちないよう、価格設定には細心の注意を払っている。

また現在、女子開発ラボを改称した「サボラボ」には、サボリーノに魅力を感じて入社した若手社員や男性社員も所属している。一部メンバーが入れ替わり、海外事業部や営業部の部長、ウェブチームや新規開拓のエキスパートなどが加わって8名に増員された。最前線で活躍する社員を集結させることで、海外向けの展開を加速させている。

中国市場のインフルエンサー「KOL」

「目ざまシート」が堅調に売り上げを伸ばしている理由の一つに、中国でのヒットがある。同社が中国向けの越境ECを本格的に開始した時期と、サボリーノの発売時期が重なっていた。訴求をしやすい商品としてサボリーノの中国展開が始まったのだ。ヒットの起爆剤となったのが「KOL」だった。「KOL」とはKey Opinion Leaderの略称で、SNS上で強い影響力を持つインフルエンサーを指す。

海外事業部の担当者はフォロワー数の多い「KOL」とタッグを組み、「目ざまシート」を徹底的に売り込んだ。日本に招き、販売中の店舗で実際に商品を手に取ってもらったこともある。その様子を撮影し、広告用動画として配信したところ、数日後には中国人観光客が殺到したという。「朝用マスク」という分かりやすさが、KOLにとって紹介しやすかったこと、黄色のパッケージがSNSで目に止まりやすかったことがヒットの背景と見ている。

一方で、インバウンド需要にも企画開発の担当者が目を光らせている。2019年1月施行の中国電子商取引法(新EC法)の改正で、転売目的の商品購入にはブレーキがかかっているが、個人利用を目的とした商品の購入には規制がかからない。

「観光客の多い店舗では、『目ざまシート ピーチ&レモネードの香り』の販売に力を入れている。アジアで人気の高いピンクカラーに、中国で縁起物と言われている桃のイラスト。小さな仕掛けを入れることで購買意欲を刺激している」と、御殿谷氏は売れ行きが好調な理由を明かした。

このような施策が結果に結びつき、「目ざまシート」は中国からアジア諸国へ広がっている。中国で人気に火がつくと、「KOL」を通して情報が拡散され、シンガポールやマレーシア、台湾でも愛用者が増えるからだ。

さらに、マスク大国と言われる韓国でもベストコスメに選ばれた。競合商品がひしめくなか、洗顔不要という今までにない切り口が大きなフックになったそうだ。2018年にはカリフォルニアでもイベントを開催し、欧米でのヒットもすでに射程距離にある。