口呼吸では肺の「予備力」が使えない

そしてもうひとつ、最近、明らかになりつつある鼻の働きがあります。鼻で大量に産生されている一酸化窒素(NO)の効用に関する新しい知見です。

NOには血管を拡げる作用があり、以前から「肺高血圧症」の人には、肺の血管を広げる目的でNOを増やす薬が使用されていました。

実は、肺という臓器はいざというときにフルパワーを発揮できるよう、部分的に休んで“予備力”を備えています。たとえば、私たちが安静にしているときには、肺のてっぺんの部分は血流も落ちて、末梢の「肺胞」にも少量の空気しか入り込まない状態で休んでいます。しかし、体を動かして鼻から大量に空気を吸い込むと、鼻で産生されたNOが肺胞に届くことによって、休んでいた肺の毛細血管が拡がり、酸素が効率よく血液に取り込まれて全身に届けられます。肺の“予備力”が総動員された状態です。

口呼吸の場合には、この鼻パワーを利用することができず、NOの量も数百分の一にとどまるため、肺の“予備力”を呼び覚ますことができません。花粉症による鼻づまりで鼻呼吸がしにくくなるということは、単に空気の通るルートが変わるだけでなく、精巧にできている呼吸システムをフル活用できなくなることを意味するのです。

加湿器がカビや細菌を撒き散らすことも

また、花粉症の時期は、空気が乾燥しやすい季節でもあります。花粉症で鼻がつまって口呼吸をしていると、よけいに喉が乾燥しやすくなるでしょう。この季節は、多くの人が室内の空気が乾燥しないよう、せっせと加湿器に水を注いで湿度を上げる工夫をしていると思います。

かぜやインフルエンザ予防の観点からも、加湿器を利用して部屋の湿度を高く保つことはよい習慣なのですが、実は、加湿器が空気中に撒き散らした「カビ」を吸い込むことによって、「過敏性肺炎」という肺の炎症を起こすこともあります。一般的な感染によって肺に炎症が起きる「細菌性肺炎」などとは、メカニズムが異なる肺炎です。

呼吸器科の外来には、原因不明の咳や肺炎が治らない患者さんも受診しますが、意外なものがその原因になっているケースもあります。この季節だけ、原因不明の咳や微熱が長引くという人は、加湿器の使い方も見直してみてください。

一般的な家庭用の加湿器は、蒸気やミストを放出するメカニズムの違いによって、①加熱式(スチーム式)②気化式③超音波式④ハイブリッド式の4タイプに分類されます。

①はタンクの水を加熱して蒸気を発生させます。カビや細菌などが繁殖しにくく、販売価格は比較的手頃ですが、電気代がかかります。②は不織布やスポンジに水を含ませ、空気を送って蒸散させることで加湿します。電気代は安いのですが、パワーも弱いうえ、掃除が行き届かないとカビの温床になることがあります。

③は超音波によって水の粒子を小さくして噴出させるタイプです。水を加熱しないため、タンクの内部が不潔になると雑菌が繁殖しやすく、そのまま空気中に放出されてしまうのが欠点です。①と②を合体させたようなシステムを採用している④は、水に温風を送って加湿するため、雑菌を放出しにくいという利点があります。加湿速度が速くて消費電力も比較的少ないのですが、機器そのものの価格はやや高めです。