失敗したときこそ「褒める」

上手に褒めるポイントは失敗したとき、叱らずに褒めることだと西村さんは言う。

写真=iStock.com/Delmaine Donson

「厳しく伝えたほうがよさそうですが、怖いと感じると知覚防御が働き、聞いてはいても頭に入ってこない状態になる。そこで『浮き輪言葉』と呼んでいますが、南部自動車学校では失敗したときにこそ褒めるのです」

脱輪しても「いい経験したね」とまず浮き輪言葉を投げて、つかまらせる。それから「次はどうする? そうだね、後方確認。OK。ちゃんとできているよ」という具合だ。

「失敗したというのは溺れている状態。あっぷあっぷしている人に『なにやってるんだ』と叱っても意味がありません。うまくいっているときは褒められて当然と思うから心に響きません。失敗したときだからこそ響くのです。部下のピンチは上司のチャンス。上司は浮き輪言葉を常備しておくべきです」

浮き輪に助けられた部下は、この人についていこうと思い信頼が生まれる。

褒められないとモチベーションが下がる「35歳未満」

「特に若い人は褒めたほうがいい」と西村さん。

ある企業の半分の上司に褒める研修を受けさせ、1000人の従業員の心の状態がどう変化したかを調査したところ、研修を受けた上司の下で働く部下のモチベーションは高く、研修を受けていない上司の下で働く部下は低かった。これは予想通り。

「驚いたのは、褒められたときのモチベーションの上がり幅は35歳未満も35歳以上もほぼ一緒だったのですが、仕事を褒められなかった場合、35歳未満はモチベーションが劇的に下がっていたのです」

仕事のモチベーションに繋がるのは賃金や昇進だけではない。心の環境が重要になってくる。この心の報酬の認識なしにマネジメントを語ることはできない。

心の報酬の1つは「成長の実感」だと西村さん。社会人になると仕事ができてあたり前。年次が上がればさらに上が求められ、成長しても認めてもらう機会がない。

今の若者はゲーム世代。ゲームは経験値を獲得し成長するから楽しいのだ。リーダーはその人の過去と現在を比べ、少しでも成長していれば、それを認める言葉をかけ、仕事の喜びを実感させる必要があるのだ。そして、次のステップ、攻略目標を与える。

「できたから褒めるのではなく、褒めたからできるようになるのです」