気になる「ニュータウン」との類似性

以上の点からすると、長久手市には何の課題もなく、明るい将来が約束されているように見えるだろう。しかし、長久手市で地域の活動にかかわる人びとの声からは、そんな能天気な明るさは聞こえてこない。むしろ、不思議なほどの緊張感に包まれている。それは、単純に明るい展望のみを描くことができないためである。

実際、長久手市の人口動態を注意深く見ていくと、1970年代以降の多摩をはじめとしたニュータウンの動向との類似性に気づかされる。ここから予測されるのは、長久手市では2035年頃まで人口増加が続くと予測されているが、その直後から急激に高齢化が進み、全国のニュータウンで問題となっている高齢化、空き家の発生、地域コミュニティの衰退などの問題が、短期間に、集約される形で押し寄せることだ。

このような問題も、現在の市の豊かさで乗り切れるのではないかと思われるかもしれない。しかし、一般にベッドタウン型の都市は、人口増による一定の税収の伸びや、大型商業施設の開店による地域経済への効果・税収増はあるものの、自動車産業を中心とする大規模な製造業集積地である愛知県西三河地域のようには、法人市民税の大幅な増収を見込むことができない。逆に、人口増によって若い世代に対応した生活基盤整備や、高齢化が一気に進む際の多額の歳出増に対する懸念が大きいと言える。その意味では、ここ数十年にわたる若い世代の人口流入は、将来の大きな課題を潜伏させている状況と見るべきなのだ。

「小学校区」を単位にしたまちづくり

このような課題に対して長久手市の目指している方向性は、地域住民の参加、共同性の再構築という、ある意味で新規性に乏しいものに見えるだろう。しかし、そのビジョンや取り組みの進め方はとても興味深いものがある。具体的には、現在の人口増加に対応した積極的な投資ではなく、将来の人口減少と急激な高齢化を視野に入れ、小学校区を単位とした住民参加・協働のまちづくりを進めている。

行政組織としては、「住民ひとりひとりの居場所がある=たつせがない人がいない」とする方針に基づき、2012年に「たつせがある課」が設置され、協働型のまちづくりが展開されている。これは現在二期目となる吉田一平市長の方針によるもので、市の政策の柱となる計画策定においても、住民と協働し、ワークショップ型で議論する委員会運営の方針が徹底されている。実際、2019年3月公開予定の「長久手市第6次総合計画」は、市民とのワークショップを中心に、すべて市の担当者の手作りで、市民と協働のもとに策定されている。

この方針は、直近の長久手市予算編成にも貫かれている。2019年度当初予算では、前年度比5.5%増の200億円超の一般会計予算が組まれた。若年人口の増加に対応した保育園・児童発達支援センター、児童館一体型施設の整備費として約6億8000万円が計上されるとともに、各小学校区の拠点である「地域共生ステーション」整備費などに5億円以上を計上している点に注意したい(中日新聞朝刊 2019年2月5日)。

「地域共生ステーション」とは、小学校区ごとに住民が地域づくりに参加する拠点とする施設で、2013年から現在まで全6小学校区のうち4小学校区で設置されている。この拠点をベースに、地域づくりにかかわる諸団体や地域住民が協働するためのまちづくり協議会と地区社協による組織づくりを進め、さらに地域の悩み事を包括的に把握し、地域での解決につなげる専門職であるコミュニティソーシャルワーカーを配置することにより、福祉を中心としたまちづくりが展開されている。