AIやデータに疲れたら

中原淳『残業学 明日からどう働くか、どう働いてもらうのか?』(光文社新書)

AIのバブルに関しても、僕は一歩引いた見方をしています。なぜかというと、これでAIブームは4度目ではないですか?

こうした繰り返しはAIだけではありません。たとえば「グローバル化」。最近の流行のように感じますが、よく考えれば1853年に黒船が来たこともグローバル化のひとつです。つまり日本の歴史上、「グローバル化」の波は、これまで少なくとも4、5回はある。これが人文社会科学的な知恵です。

要するに、歴史という長い観点で見れば、今起こっているようなことは何度も繰り返し起きているのです。働き方改革も同じです。1987年には「新前川レポート」がありました。これは当時年間2100時間を超えていた日本人の労働時間を、できるだけ早期に1800時間程度にするという目標を示したものです。そこから今回の働き方改革まで30年。これも繰り返しです。

今の時代、「AI」というキーワードにみんな食傷気味ではないでしょうか。そういう人はぜひ『センスメイキング』を読むことで、もう一度地に足をつけて、人文科学の知の重要性や、それを学ぶことの意義を再確認してほしいと思います。歴史は繰り返します。そして人間もまた繰り返す。人文社会科学の深遠な世界を経験すれば、世の中に惑わされない体幹を整えることができるのだと、わたしは信じています。

中原 淳(なかはら・じゅん)
立教大学経営学部 教授
1975年生まれ。東京大学教育学部卒業、大阪大学大学院人間科学研究科、米国・マサチューセッツ工科大学客員研究員、東京大学准教授などを経て、2018年より現職。大阪大学博士(人間科学)。専門は人材開発・組織開発。立教大学経営学部では、BLP(ビジネスリーダーシッププログラム)主査、リーダーシップ研究所副所長をつとめる。著書に『職場学習論』『経営学習論』(いずれも東京大学出版会)などがある。研究の詳細は、「NAKAHARA-LAB.NET」。
(聞き手・構成=的場容子)
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