タイで起業して大成功したという日本人
海外で日本人が日本人を騙す。しかも、時に1人あたり数千万円という悪質な投資詐欺が、タイをはじめとした東南アジアで横行している。タイ・パタヤの日本人会の事務局長を務めている筆者は、これまでそうした詐欺にあった日本人の方々の被害相談を多数受けてきた。そこで得た話には、登場人物や被害者を呼び込む手法などで多くの共通点がある。
その典型的な手口は、たとえばこんな具合だ。少し長くなるが、相談者の1人、Aさん(40代男性)が語ったその経緯をみてみよう。
その投資セミナーがあったのは2012年の初夏のこと。当時脱サラを考えていたAさんが、タイで起業して大成功している日本人の話を聞けるセミナーがあると知った。
そのセミナーは、平日の夕方、東京都心のオフィス街のビルの会議室で開かれた。日本でも飲食店の経験が豊富で、実際にタイで飲食店投資をして大儲けしていると自称する50代くらいの日本人男性(仮にG氏とする)が、その場に赴いたAさんを含む40人程度の聴衆に熱心に語りかけたという。
「G氏が言うには、『日本の市場は、将来の成長見通しがとても暗い。でもタイはアジアの中心として、成長の真っただ中。しかもタイでは、日本ブランドは憧れの的なんです』。中でも、驚くべき高い利回りを得られるのは日本料理店だというんです。現地では、日本人経営でサービスの行き届いた高級日本料理店は羨望の的で、『日本食の人気にあやかってタイ人が経営する偽物の日本料理店は多いけれど、日本人が経営するきちんとした店は、それらとは一線を画します』と」(Aさん)
バンコクの日本料理店への“視察旅行”
要は、日本人経営の日本料理店への投資がイチオシというわけだ。そして、「タイの人にとって、高級な日本料理を食べることは大変なステータス。日本のバブル期に高級店で高い料理ばかりが売れたのと同様に、タイの日本料理店では今、値段を高くすればするほど、飛ぶように売れていくのです!」と畳み掛けてきた。
G氏は「運営にかかるコスト面を見ても、人件費や家賃などは日本の相場の約3分の1。それなのに客単価がこんなに高い。そうすると、見てください、こんなに儲かるんです!」と、会議室のスクリーンに自らの店舗の収益と称するデータを示したという。
「そこには、投資はおよそ1年で回収、2年目には利益のすべてが懐に入るというバンコクの店舗の数値が“実績例”として書いてありました。そしてG氏は、『百聞は一見に如かず』と、タイ・バンコクで自ら経営する日本料理店への“視察旅行”に勧誘しました」(Aさん)
セミナー参加者の約半分がその旅行に同行。その中には、現地駐在員の経験もあってタイに愛着を抱いていたAさんも含まれていた。