厚労省は組織ぐるみで隠蔽してきた
このため、昨年に入ってから「毎勤のデータはおかしいのではないか」との疑義が呈されてきたのである。結果的に、専門家の指摘の通り、統計がおかしかった。
企業では考えられないずさんな業務実態だ。企業の場合、業務が内規や法令を遵守しているか、内部監査による客観的な検査が行われる。それでも、自動車メーカーの不適切検査などが明るみに出る。それを受けて、内部統制の実施体制をはじめ、企業統治=コーポレート・ガバナンスの強化に取り組む企業は増えている。
これに対して、厚労省は不適切な統計調査業務の実態を、組織ぐるみで隠蔽してきたといわれても仕方ないだろう。長期間にわたって不適切な統計が放置され、データが専門家などに使われてきたことを考えると、同省はガバナンスの意義を理解してこなかった。
政府の景気判断にも疑義を生じている
統計データは、経済の状況を映す鏡だ。統計調査が適切に実施されたか否かは、景気判断の信頼性や政策の正当性にかかわる。統計の信頼性が揺らぐことは、景気判断そのものに疑義を生じさせる。明確な根拠なしに統計調査の手法を変更することはあり得ない。
調査段階におけるミスや不適切な処理が発覚した際には、統計データを修正しなければならない。過去のデータも適切に管理し、必要に応じて利用できるようにすることが欠かせない。しかし、厚労省は2004年から11年までの毎勤の基礎資料を廃棄・紛失している。政府は毎勤データの補正を行うとしているが、事実上データ補正は困難だ。
毎勤のデータは、内閣府が作成する国民経済計算の基礎統計に使われている。すでに内閣府は毎勤が再集計されたことを受けて平成29年度の国民経済計算年次推計(フロー編)を再推計した。内閣府が公表した資料を見ると、雇用者報酬、家計貯蓄率が上方修正された。
“賃金構造基本統計”でも不適切な調査を放置
国民経済計算は、経済の全体像を把握し、国際的な比較を行うことを目指している。基礎データの不適切な集計によって国民経済計算が再推計されたという事実は、雇用・所得環境の把握が難しくなったことと言い換えられる。
また、国民経済計算は、わが国の経済の実力を見極め、必要な政策を進めるための基礎材料だ。それが改定されたということは、経済に関する政府の判断(景気判断)が正しかったかという疑義を生じさせる。それは、政策の立案と運営に関する政府の判断が正当であったかという不信感を高める問題といっても過言ではない。
厚労省は、毎勤だけでなく“賃金構造基本統計”に関しても不適切な調査を放置してきた。総務省が所管する小売物価統計調査においても、大阪府で店舗訪問が行われず、過去の価格が報告され続けるという不適切な業務実態が明らかになった。こうした実態の発覚には、言葉を失う。公的な統計制度そのものに対する不信感が高まっている。